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第９回　責任財産の保全（2）――詐害行為取消権の要件（280―309頁）

Aiko Kobayashi

問題数 21 • 11/11/2024

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詐害行為取消権とは？

資力をもたない債務者が、積極的に自分の財産を減少させる行為をした場合、債権者はその行為を取り消すことができる

貸金業社であるA１およびA２は、Bに対してそれぞれ100万円、50万円の貸金債権を有している。Bは弁済する資力もないのに、唯一の財産的価値のある時価90万円の彫刻作品「考えるふりをする人」を、親友Cに贈与してしまった。取消債権者、詐害行為、受益者、転得者に当たるものはそれぞれ何か？

取り消すAらは債権者（取消債権者）、債務者Bの行為を詐害行為、それにより利益を受けた相手方Cを受益者と呼ぶ。Cから財産（逸出利益）を転得した者を転得者という。

詐害行為取消権の目的と機能３つ

① 責任財産保全の目的債務者Bの詐害行為を取り消し、逸出財産（90万円の作品）を回復することにより、債務者Bの責任財産を維持する ② 債権の簡易優先回収機能取消債権者（たとえばA１）は、詐害行為取消権を行使することにより、自己の債権（被保全債権）の回収をすることが許容されている ③ 債権者平等を保つ目的詐害行為の受益者が、債権者の1人であることがある債権者A２が、債務者Bのした債権者A１に対する弁済や代物弁済を詐害行為として取り消すことが、例外的に認められている（424条の３） ←債権者A１・A2間での平等を図る機能

破産法の理念

破産債権者に公平に分配

破産法上の否認権と、詐害行為取消権の違い

破産法上の否認権は、破産管財人が否認権を行使することにより逸出財産を破産財団に適切に回復してこれを破産債権者に公平に分配するが、詐害行為取消権は、そう債権者への公平な分配は徹底せず、個々の債権者が自己の債権を回収するための強制執行の準備として行使される。

詐害行為取消権の債権者側の要件３つ

（１）被保全債権が金銭債権であること　　債務者の責任財産の保全が目的とされているため　　ただし、非金銭債権であっても、債務不履行によって金銭債権である損害賠　　償請求権に変化している場合には、被保全債権となりうる（２）被保全債権が詐害行為より前の原因に基づいて生じたこと　　　「詐害行為よりも前に発生した」よりも広い意味　Ex.　履行遅滞による遅延損害金請求権が発生したのが詐害行為より後であるとしても、同請求権の発生の原因となる債権または履行遅滞が詐害行為より前に発生している場合には、詐害行為取消しの対象となりうる（３）強制執行により実現できるものであること（424条4項）

詐害行為取消権の要件の一つである、「被保全債権が詐害行為より前の原因に基づいて生じたことと、対抗要件の関係

対抗要件が優先される対抗要件具備が、被保全債権の発生より後であったとしても、権利移転が被保全債権（あるいはその原因）の発生より前である場合には、権利移転行為も、対抗要件具備にかかる行為も取り消せない Ex. まず、①債務者が第三者に甲不動産を譲渡し、次に②債権者が債務者に100万円を貸し付けたことにより金銭債権（被保全債権）を取得し、最後に、③第三者が甲につき登記を具備した場合 ←被保全債権が詐害行為より前の原因に基づいて生じたとはいえない　登記は対抗要件に過ぎず、①の時点で既に甲の所有権が第三者に移転している

詐害行為取消権の債務者側の要件２つ

（１）客観的要件としての詐害行為（２）主観的要件としての詐害の意思

客観的要件としての詐害行為の要件３つ

(a) 債務者の行為であること (b) 財産権を目的としない行為は取り消せない(身分行為、相続破棄、離婚による財産分与など)

詐害行為取消権の債権者を害する行為の３つの型

① 正味財産減少型　債務者の積極財産から債権の総額を差し引いた額（正味財産額）がマイナスとなる、またはマイナスが拡大する行為 Ex.債務者Bの積極財産90万円、債権者Aへの債務が50万円であるところ（正味財産額：90万円―50万円＝40万円）、Bが90万円をCに贈与すれば、正味財産が－50万円となる。（424条、424条の４） ② 配当率減少型　正味財産額は変わらないが、債権の引き当てとなる財産を減少させる行為 ex.債務者Bの積極財産90万円から、債権者A１（100万円）、債権者A２（50万円）の債権総額150万円を差し引いた正味財産額は－60万円 ←既に債務超過であり、債権額に応じて（A１（100万円）：A2（50万円）＝２：１）、A１は90万円のうち、60万円を自己の債権の引き当てとなる財産と期待しうる ③ 担保価値減少型正味財産が減少せず、債権の引き当てとなる財産も減少しないが、債権者が弁済を期待することが難しくなる行為 Ex.債務者Bが所有する甲不動産（時価1000万円）を第三者Cに1000万円で売却し現金を取得→現金は不動産より消費・隠匿しやすく、債権者Aが弁済の引き当てにすることが難しくなる

債務者の無資力とは？

債務者の行為によって無資力となる場合、無資力の状態で債務者が行為をする場合の双方を意味する行為時に判断される。

詐害行為取消権の受益者の要件

受益者の悪意詐害行為取消権発生のためには、債務者Ｂの詐害意思に加えて、受益者Ｃの悪意も必要である（424条1項）受益者Ｃが善意であったことの立証責任はＣが負担する

詐害行為取消権の転得者の要件 Case2：貸金業社であるA１およびA２は、Bに対してそれぞれ100万円、50万円の貸金債権を有している。Bは弁済する資力もないのに、唯一の財産的価値のある時価90万円の彫刻作品「考えるふりをする人」を、親友Cに贈与してしまった。CはこれをＤに売り渡した。

① 受益者Cに対して詐害行為取消請求できること→Cが善意であればDに対する詐害行為取消権も発生しない ② 転得者Dが悪意であること（424条の5） a) 受益者Cからの転得者D Dが転得の時点で債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき（424条の５第1号） b) 他の転得者からの転得者全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき（424条の5第2号） ←善意者の保護

相続放棄と詐害行為【事案】Ａ会社の破産宣告により、Ｘが破産管財人に選任された。Ａは、Ｂに対して合計46万円余の債権を有していた。Ｂが死亡し、その相続人Ｙらが相続放棄を家庭裁判所に申立て、これが認められた結果、無資力であるＢの配偶ＣがＢの単独相続人となった。そこで、Ｘは、Ｙらに対して、相続放棄はＢの債権者を害する意図で行われた詐害行為であるとして取消しを求めた。

【判旨】「相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。」 ←相続放棄を一律に詐害行為取消しの対象から除外することを明らかにした。理由として、相続放棄は身分行為であること、消極的に増加を妨げる行為に過ぎないことを挙げている。

財産減少行為とは？

贈与、廉価売却、債務免除など、債務者の正味財産を減少させる行為（正味財産減少型）詐害行為取消権の一般的な要件（424条1項）が妥当

相当価格での財産処分行為における詐害行為取消権の要件

不動産を時価で売却した場合（担保価値減少型）には、加重された要件（①、②、③）のもとで詐害行為取消請求の対象となる（424条の２）　　【加重要件】 ① 債務者による隠匿等の具体的なおそれ ② 債務者の隠匿等の処分の意思 ③ 受益者の認識

特定の債権者に対する行為（弁済の場合）の詐害行為取消権の要件

【加重要件】（424条の３第1項） ① 債務者の支払不能時に弁済されたこと ② 債務者と受益者の通謀により他の債権者を害する意図で弁済されたこと＊ただし、債務者が履行期より前に弁済した場合には、その時点では債務者が支払不能ではなかったとしても、支払不能になる前30日以内である場合には、②の要件も満たせば詐害行為取消請求できる（424条の３第2項） ←支払不能になる可能性を察知した債権者が詐害行為取消を免れるのを回避

代物弁済の詐害行為取消権の要件

代物弁済の合意だけではなく、給付されたことを要する

債務の額よりも過大な価額の給付をする代物弁済の場合、過大な部分はどうなるか？

過大な部分―財産減少型として424条1項の要件のもとで詐害行為取消し（424条の４）債務の額に相当する部分―特定の債権者に対する行為として423条の３第1項の加重された要件のもとで詐害行為取消し

担保の供与（既存債務について、特定の債権者のために、抵当権を設定するなど、担保を設定すること）の詐害行為取消権の要件

債務消滅行為と同様に加重された要件のもとで詐害行為取消しの対象となる（424条の３）

債務者が新たに借り入れるにつき担保を設定すること（同時交換的行為）

債権者は最初から担保権者であるため424条の３は適用されないもっとも、財産の相当対価による処分として424条の２による取消しの対象になり得る

第９回 責任財産の保全（2）――詐害行為取消権の要件（280―309頁）

第９回　責任財産の保全（2）――詐害行為取消権の要件（280―309頁）