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歴史的制度論

Aiko Kobayashi

問題数 38 • 6/18/2025

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戦後のアメリカ政治学において、制度が軽視された理由

アメリカの政治体制を自明の前提とし、他の先進国もアメリカ・モデルに収斂するという前提が存在し、比較を行わなかった

歴史的制度論の登場理由３つ

①1973年の石油危機以後の経済危機に直面して、先進国間に著しい経済パフォーマンスの差異が生じ、国の政治経済体制の違いに関心が寄せられたこと ②制度は粘着性（つながり）を持つこと ③インフォーマルな組織である利益集団よりも、法的な権限、正当性、豊富な人的・財政的資源に支えられたフォーマルな組織である政府の機関に注目が集まり、国家の制度構造が政策アウトプットを規定するという見方が生まれた

新制度論とは？

制度の仕組みそのものではなく、制度の効果に関心を持つ理論

スタインモの研究

アメリカ、イギリス、スウェーデンの税制度の違いを説明する

1980年代のアメリカの税制度の特徴は？３つ

• 累進性が高い所得税や固定資産税が大きな比重を占める • 租税特別措置が多く、非常に複雑 • 歳入が少ない。

1980年代のスウェーデンの税制度の特徴は？

• 全体として税負担は重い。 • 逆進性の強い（貧しい人に対して負担が重い）消費税や社会保障負担税の占める割合が高く、累進性はむしろ低い。 • 金持ちの税負担は、消費を抑制し投資を促進するようになっている。

1980年代のイギリスの税制度の特徴

アメリカとスウェーデンの中間政権交代ごとの変化の激しさが著しい

３国の３国の税制度を利益（圧力団体が短期的な自己利益を追求するという前提の下、グループ間のリソースの違いにより、いかなる政策がとられるのか）から説明する場合の問題点

福祉政策が充実しているスウェーデンにおいて、労働組合の力が強いはずなのに、労働者より資本家に有利な税制が取られているのかが説明できない

３国の税制度を価値（政治文化）、つまり国にはそれぞれの政治文化があり、異なる国においては、人々は異なった政治的選好を持つことを想定して考えることの問題点は？

個人主義的で機会の自由が尊ばれるアメリカで、最も成功した資本家に90%以上もの税率を貸した時期があったこと、社会民主主義文化を持つスウェーデンで、資本家に80%以上の税率が課されたことはないということを説明できない

歴史的制度論からスウェーデンの税制度を説明すると？２つ

・比例代表制により政権が安定しており、対立ではなく協調を選ぶコーポラティズム的な政策決定の仕組みが作られた・労使のコーポラティズム的な合意により、投資を刺激するために、大企業や資本家の税負担が軽くなった

歴史的制度論からアメリカの税制度の仕組みを説明すると？３つ

・厳格な三権分立制、連邦制による地方分権により政治権力が断片化している。・課税と支出の決定権が分離（予算を取る方はどれくらいお金が入るかを考えずに予算を作成し、税金を取る方は、どれくらい必要かを考えない）されており、歳入委員会の議員は、特定の圧力団体の要請を受け、個別的・恩恵的な特別減免措置を実施（租税特別措置の多さと複雑さ）・政治システムが断片的なため（大統領が提案しても議会が反対するなどして）、安定的な税収を期待できる全国的な消費税は導入されず、歳入は伸びない

歴史的制度論からイギリスの税制度を説明すると？２つ

• 高所得者に高い税率を課そうとする労働党と、それを引き下げようとする保守党が政権交代を繰り返したため、変動が激しい。 • 官僚は、資本家に対して自律性が高いため、利益団体の意向はあまり受け入れられず、租税特別措置が少ない。

イマグート（Ellen Immergut）（1992）“The Role of the Game: The Logic of Health Policy-Making in France, Switzerland, and Sweden.”（１）どのような研究か？

フランス、スウェーデン、スイスの健康保険政策の比較研究

1980年代のスイスの健康保険制度は？

国民保険制度の導入に失敗しており、政府の役割は民間保険に補助金を出すのみ

フランスの健康保険政策の特徴は？

国民保険制度が導入され、医師の診療報酬に対しても、政府が一定程度規制

スウェーデンの健康保険制度の特徴は？

国民保険制度を最初に導入した国であり、医療は公立病院の医師によって行われている

フランス、スウェーデン、スイスの間の「医療の社会化」の程度の大きさは？

スウェーデン＞フランス＞スイス

医療の社会化が進むのは医者の政治的影響力がどのような時か？

小さいとき

医療の社会化は医師会が複数に分裂しているフランスで進むはずだが、実際には医師会が統一されているスウェーデンの方が進んでいるこれは医師の政治的影響力の強弱では説明できない他にどのような説明をすることができるか？

憲法や法律によって埋め込まれた「拒否点」（Veto Point)による説明執政府が法案を立法府に提出した場合、その法案はいくつかの「拒否点」を乗り越えなければ成立しない。

スイスにおいて医療の社会化が進んでいない理由

国民投票という拒否点が埋め込まれているスイスでは、医師たちは、政策決定者から妥協を引き出すために、国民投票に訴えるという脅しをかけることができたため。←国民投票にかけると政策が潰される可能性が高い

ウイア／スコッチポル（Margaret Weir and Theda Skocpol）（1985） “State Structures and Possibilities for ‘Keynesian’ Responses to Great Depression in Sweden, Britain and the United States.”（１） 1929年の世界大恐慌後、イギリスとスウェーデンの経済政策の転換

イギリス：労働党が失業手当の充実を行ったスウェーデン：社会民主労働党が経済復興と失業者救済のため国際発行による公共事業を明示的な戦略として採用

イギリス：スウェーデンのような政策を取らず労働党が失業手当の充実を行ったスウェーデン：社会民主労働党が経済復興と失業者救済のため国際発行による公共事業を明示的な戦略として採用この違いの原因は？

経済の専門家を政策形成に参画させることに対する「国家構造の開放度（新しい考え方が政府に受け入れられる仕組みが備わっているか）」と「政策遺産（失業問題に対するこれまでの政策の蓄積により、同じ政策を採用）」の違いイギリス：国家構造の開放度が低く、政策遺産があった

構造的制度論とは？

国ごとに政策や政策パフォーマンスが異なるのは、国ごとの制度の違いに原因があるとする理論

（狭義の）歴史的制度論とは？

制度自体がどのように変化し発展してくのかという理論

経路依存性とは？

ある時点で選ばれた制度や政策の選択肢が、その後の選択や変化の方向を制約し、過去の選択に依存する形で政治や制度が継続・固定されていく現象

重大局面（決定的分岐点）とは？

短期間における重要な選択や出来事が、長期的な制度・政治の方向を決定づける分岐点となる時期

自己強化過程とは？

ある制度や政策が一度選ばれると、その選択が自らを正当化・強化し続ける仕組みによって維持・拡大され、変更がますます困難になる現象

正のフィードバック過程とは？

ある制度・政策・行動が選ばれると、それが自らを強化する力（効果）を生み出し、次の同様の選択をより起こりやすくするという連鎖的な過程

ロックインとは？

過去に形成された制度や採択された政策が、現在の制度選択や政策選択を強く拘束し、他の制度や政策の選択を、考えつくこともできないほど困難なものにすること

正のフィードバック過程の具体例

車の左側通行と右側通行

ハッカーによる政策変化の分類４つ

政策放置（drift）:環境変化への未対応による既存の政策の実質的変容例）既存の社会プログラムのリスク対応範囲の衰退政策併設（layering）：既存の政策を廃棄せずに新しい政策を創設例）個人退職勘定の税制上の優遇措置の創設や拡大政策転用（conversion）：既存の政策の実質的な適応例）公的な補助を受けた私的年金給付の再編「政策置換(replacement)」例）要保護児童家庭扶助プログラムの廃棄

政策放置、政策転用、政策併設、政策置換はそれぞれ政治環境における現状維持志向と政策の実質的変化に対する抵抗の強弱はどうか？

政策放置；強い　強い政策併設：弱い　強い政策転用：強い　弱い政策置換：弱い　弱い

「政策放置」（drift）とは？

政治環境において現状維持志向が強く、政策の実質的変化に対する抵抗も強い場合、環境変化が起きているにもかかわらず、既存の政策や制度が意図的に変更されなかった（放置された）結果、実質的に政策の内容や効果が変化

「政策転用」（conversion）とは？

政治環境において現状維持志向が強く、しかし、政策の実質的変化に対する抵抗が弱い場合、既存の政策や制度が、もともとの目的とは異なる目的に転用

「政策併設」（layering）とは？

政治環境において現状維持志向が弱く、政策の実質的変化に対する抵抗が強い場合、既存の政策や制度を廃止することなく、それに並行して別の政策や制度を創設する

歴史的制度論とは？

類似の問題を解決するために採用される政策が国ごとに異なる原因を、フォーマルな国家構造に求める理論

公式の制度と非公式の制度とは？

公式の制度：法律や規則といった明文化された制度非公式の制度：組織や社会における習慣・慣習、暗黙の了解、政治文化といった、明文化されてはいないものの、アクターの行動に深く影響を及ぼすもの

歴史的制度論の重要な点

従来の理論が「選好の論理（アクターが自分の利益に基づいて政策を決定）」を重視していたのに対し、「義務の論理（アクターは制度から与えられた義務に基づいて政策を決定）」を重視している点