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第 23講 物権的請求権・占有(権)Ⅰ

第 23講 物権的請求権・占有(権)Ⅰ
25問 • 2年前
  • Aiko Kobayashi
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    問題一覧

  • 1

    物権的請求権とは?

    物権が他人によって侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、物権者が その他人に対して侵害や危険の除去を求める権利

  • 2

    物権的請求権の種類3つ

    ①返還請求権、②妨害排除請求権、③妨害予防請求権

  • 3

    【設例 1】A が所有する甲土地の上に、B が所有する自動車乙が放置されていた。A は、B に乙を引き 取るよう求めた。その際、以下の各事情が存在した。 ① B が甲に乙を乗り捨てていた。 ② B から乙を盗んだ C が、乙を甲に乗り捨てていた。 ③ 乙は、津波により甲に流されてきたものだった。 Ⅰ 問題の所在 物権的請求権によって相手方に何を請求することができるのかについて、伝統的に議論が存在する。 すなわち、相手方に対して、侵害の積極的な除去を求めることができるのか、それとも、請求者自身が する回復行為を消極的に忍容するよう求めることができるにとどまるのか、そして、誰が侵害除去にか かった費用を負担するのか、という議論である。とりわけ、設例 1 の②(第三者が侵害状態を作り出し た場合)や③(不可抗力によって侵害状態が作り出された場合)が問題となる。

    (1) 行為請求権説(判例・従来の通説) 従来の通説的な見解によれば、物権的請求権は、相手方の費用負担での積極的な侵害除去行為を請求 する権利であるとされる。判例も、基本的に、このように考えているものとされている 1。この説の基 礎には、次のような思想がある。 (i) 物権的請求権は、人に対して積極的に請求することができる権利である。 (ii) 侵害の惹起につき不法行為責任を負わない者であっても、侵害の原因を支配していれば、侵害除 去の負担を負うべきである。 (2) 忍容請求権説 とりわけ設例 1 の②や③を念頭に、物権的請求権は、相手方に対して、請求者自身が回復行為をする のを忍容せよと要求する権利に過ぎない、とする。この見解によると、請求者は、自らの費用で回復行 為をした後、侵害を惹起した責任を有する者に対して、不法行為による損害賠償を請求することになる。 この説の基礎には、次のような思想がある。 (i) 物権的請求権は、物権の一作用であり、物に対する追及権であって、人に対して積極的に何かを 求める権利ではない。 (ii) 侵害の惹起につき不法行為責任を負わない者に、侵害除去の負担を負わせるべきではない。 (iii) 設例 1 のような場合には、甲につき A の妨害排除請求権と乙につき B の返還請求権とが、対立 的に存在しているものと考えられる。行為請求権説に立つならば、先に判決を得て執行した方が得をす ることになり、公平に反する。 (3) 責任説 このほか、忍容請求権説に近い見解として、侵害者に不法行為責任要件があれば行為請求権となり、 責任要件がなければ忍容請求権になる、との学説も主張された 2 近時の議論――侵害基準説 (1) 双方侵害の否定 近時の学説においては、忍容請求権説の論者が指摘するような双方侵害は生じていない、との見方が 有力である。設例 1 のような場合には、社会通念に従うと、乙が甲の所有権を侵害していることはあっ ても、甲が乙の所有権を侵害したとは評価されないはずである。B は乙を介して乙の所在地を妨害して いると評価することができるが、A が B の取戻行為を阻止するなど何か積極的な行為に出ないならば、 A が乙を占有していると評価することはできない。したがって、設例 7 においては、A の妨害排除請求 権だけが問題になるとする。 (2) 請求権の内容 そのうえで、近時の学説は、A が有する物権的請求権の内容は行為請求権であるとの見解を踏襲して いる。ここでの問題は、侵害を惹起したことに対する不法行為責任ではなく、継続している侵害を除去 すべき責任であることから、不法行為責任要件を充たさない②・③のような場合にも、B の費用負担が 認められて致し方ないとする。 他方で、 B にも、乙を引き取るための甲への立ち入りを忍容するよう A に要求する権利があるとして いる――このときの A の忍容義務が、信義則ないし相隣関係に基づく義務なのか、物権的請求権の一種 なのかについては争いがある。――。もっとも、A が B の引取り申し出を拒んだ場合には、B にも返還 請求権が認められうるが、この場合にも、A が負う義務は、甲の上にて乙を引き渡すということに留ま り、実際の費用負担は変わらない、とされている。

  • 4

    物権的請求の相手方 原則

    現在の侵害者または侵害のおそれを生じさせている者

  • 5

    【設例 2】A が所有する甲土地に、A が知らないうちに B により乙建物が建てられ、B 名義の保存登記 がされていた。そこで、A は、B に対し、乙を収去して甲を明け渡すよう求めた。ところが、乙は既に B から C へと譲渡されていた。設例 2 において、A は、甲の所有権に基づく返還請求権の行使として(通説)、乙の収去および甲の明渡しを求めている。このとき、A が請求の相手方としなければならないのは、現に乙の所有権を有する C なのか、それとも、登記名義を有する B なのか。上記の原則によれば、現に建物を所有することによって土地を占有し、その所有権を侵害している C を相手方にすべきものと考えられる。それでは、A は、B に対して請求することはできないのか。

    登記名義人責任説(判例 3) 判例は、次のような理由から、「他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて 所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保 有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義 務を免れることはできない」としている。 ① 建物は土地を離れて存立しえず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地 所有者は、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有する。そうすると、土地所有者が建物譲 渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上 建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動にお ける対抗関係にも似た関係ということができる。したがって、自らの意思で登記を経由した建物所有者 は、登記を保有する以上、土地所有者に対して建物所有権の喪失を主張できないというべきである。 ② 登記にかかわりなく実質的所有者を相手方としなければならないとすると、土地所有者は、その 探求の困難を強いられることになり、また、相手方において、たやすく建物の所有権の移転を主張して 明渡しの義務を免れることが可能になる。 ③ 建物譲渡人が所有権移転登記を行うことは、通常、さほど困難なこととはいえず、不動産取引に 関する社会慣行にも合致する。したがって、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主 張し、その建物の収去義務を否定することは、信義にもとり、公平の見地に照らして許されない。

  • 6

    1 未登記建物を譲渡した場合 【設例 3】A が所有する甲土地上に、B は、無権原で乙建物を所有していた。B は、乙の保存登記をし ないまま、これを C に譲渡した。その後、A は、B を相手方として、建物収去・土地明渡しを求める訴 訟を提起し、乙につき処分禁止の仮処分を申し立てたため、裁判所の嘱託により B 名義の所有権保存登 記がされた(最判昭和 35・6・17 民集 14‐8‐1396)。

    (1) 請求否定説(判例 4) 判例によれば、設例 3 のように、未登記建物が譲渡された後に、譲渡人の意思に基づかずに譲渡人名 義の所有権取得登記がされた場合には、譲渡人を請求の相手方とすることはできない。というのは、譲 渡人は、未登記建物の譲渡により確定的に所有権を失うので、その後に自己の意思に基づかない登記が されても、建物所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるからである

  • 7

    仮装名義の場合 【設例 4】A が所有する甲土地の賃借権の無断譲渡を受けた C は、同地上に乙建物を建築し、B との合 意のうえで、B 名義の所有権保存登記をした。そこで、A が B に対して、建物収去・土地明渡しを求め た(最判昭和 47・12・7 民集 26‐10‐1829)。

    判例によれば、建物の所有名義人が、実際に建物を所有したことがなく、単に登記を有するにすぎな い場合にも、この者を相手方とする請求は認められない 6。この場合については、仮装登記につき 177 条の適用が問題とならないことと、パラレルに考えることができる

  • 8

    【設例 2】A が所有する甲土地に、A が知らないうちに B により乙建物が建てられ、B 名義の保存登記 がされていた。そこで、A は、B に対し、乙を収去して甲を明け渡すよう求めた。ところが、乙は既に B から C へと譲渡されていた。 【設例 2-2】設例 2 において、A は、B が建物所有権を譲渡したことを知っていた。 その主観的態様により登記名義人を相手方とすることができない場合があるか。

    (1) 主観的態様顧慮説 177 条の「第三者」における主観的要件による制限になぞらえて、土地所有者に一定の主観的態様が あれば、登記名義人を相手方とすることができない、とする。 (2) 主観的態様不顧慮説 8 第三者に取引を控えるという選択肢のある不動産二重譲渡の場合と異なり、土地所有者は、物権的請 求権を行使しないわけにはいかず、建物譲渡を認識していても、転譲渡などにより誰が現に実質的所有 者であるか知れない可能性もあるのだから、登記によって相手方の明確化を図るべきであり、原則とし て、土地所有者の主観的態様により相手方となる資格を左右すべきでない、とする。

  • 9

    占有の規定の機能4つ

    1 社会秩序維持機能 まず、占有制度には、物の事実的支配を一応尊重・保護することによって、社会の秩序を維持する機 能があるとされる。占有の訴え(占有訴権、197 条以下)が、この役割を果たしている。 2 本権表章的機能 次に、 法は、占有に、 本権(所有権など占有の原因となる権利)の存在を表章する機能を認めている。 権利適法の推定(188 条)・即時取得 9(192 条)・動産物権譲渡の対抗要件(178 条)などが、この機 能に関連する。 3 本権取得的機能 さらに、占有に基づいて本権を取得することが認められている。取得時効(162 条)・動物の占有に よる権利の取得(195 条)・無主物先占(239 条)・遺失物拾得(240 条)・留置権の発生(295 条)などが、これにあたる。 4 物の返還に際しての利害調整機能 最後に、民法は、物権的返還請求権によって占有物を返還しなければならなくなった場合について、 占有者の権利義務を規定して、権利者と占有者の利害調整を図っている(189~191・196 条) 。

  • 10

    占有の成立要件2つ

    ①物の所持 ②自己のためにする意思 (180 条)

  • 11

    物の所持とは?

    物が社会通念上ある者の事実的支配に属すると認められる客観的状態

  • 12

    自己のためにする意思(占有意思)とは?

    物の所持による事実上の利益を自己に帰せしめようとする意思

  • 13

    自己のためにする意思の必要性についての説

    (1) 主観説(通説) 自己のためにする意思が占有の要件である、とする。もっとも、通説的見解によると、この意思の有 無は、純粋に客観的に、物の所持を生じさせた原因(権原)の性質によって決まる。例えば、買主・賃 借人・受寄者などは、物の管理・利用・処分をする者であるから、売買・賃貸借・寄託などの契約は、 自己のためにする意思を基礎付ける権原となる。また、盗人なども、自ら利得する意思を有するのが通 常であるから、窃盗もこの権原となる。

  • 14

    他人を介してする占有の種類2つ

    代理占有(間接占有)と占有補助者(占有機関)

  • 15

    代理占有とは 【設例 5】A は、B との間で、A 所有の甲土地の賃貸借契約を締結し、これを引き渡した。

    占有権は、代理人によって取得することができる(181 条) 。設例 5 において、甲を直接に所持して いるのは B であるが、 B に占有が認められるだけでなく、 A にも B を介した占有が認められる。この B のように、本人 A に代わって占有する者を「占有代理人」、B を介した A の占有を「代理占有」(間接 占有)といい、これに対して、直接に物を所持する場合の占有を「自己占有」(直接占有)という

  • 16

    代理占有の効果は?

    代理占有においては、占有代理人だけでなく、本人にも占有が認められ、それに基づく権利義務を取 得する。したがって、本人について、取得時効期間の進行・動産物権譲渡の対抗要件具備・即時取得・ 占有訴権などが認められる。

  • 17

    代理占有の場合、占有態様の判断対象は誰か?

    代理占有において、占有の平穏・公然・善意・無過失などは、第一次的に占有代理人について判断さ れる。もっとも、第二次的に、本人に悪意などがあるときは、占有代理人が善意であっても、善意占有 者などとしての利益を受けることができないとされる(101 条類推)。

  • 18

    代理占有の要件3つ

    (1) 占有代理人の所持 (2) 占有代理関係(所持者が本人に対して物の返還義務を負う関係)の存在 (3) 占有代理人の「本人のためにする意思」 「本人のためにする意思」とは、物の所持による事実上の利益を本人に帰せしめようとする意思 (4) 本人の「代理人によって占有を取得する意思」 この意思について通説は成立要件としていない 法律行為の代理においても、代理関係があれば、本人が代理人の行為によって法律効果を取得する意思は、問題にならないから

  • 19

    占有補助者(占有機関) 【設例 6】A は、B から甲建物を賃借し、配偶者 C および子 D とともに居住している。

    本人が他人に物を支配させているが、その他人に独立の所持が認められないために、本人だけに占有 が認められる場合がある。このような関係にある他人を、占有補助者(占有機関)という。設例 2 の C や D のほか、店番をしている使用人、法人の代表機関 11などが、その例

  • 20

    占有(権)の承継取得 【設例 7】A は、B から動産甲を買い受け、現実の引渡しを受けた。 占有権の承継取得は可能か?

    1 占有(権)の承継可能性 占有権(占有に対する法的保護)は、個々の占有者の物に対する事実的支配に対して認められるとこ ろ、占有の取得態様は、原始取得が原則的である。しかしながら、182 条以下では、占有権が譲渡可能 な権利とされており、占有(権)の承継取得が認められている。

  • 21

    占有権の承継取得の効果2つは?

    (1) 承継前後の占有の同一性 占有(権)の承継取得が認められるということは、前主の占有と後主の占有との間に同一性が認めら れるということである。これにより、取得時効期間の計算において、前主の占有期間と後主の占有期間 の合算および占有瑕疵の承継が認められ(187 条)、また、動産物権譲渡の対抗要件(178 条)や即時取 得の要件(192 条)となる引渡し(占有の移転)が基礎づけられる。 (2) 承継人の占有の二面性 もっとも、承継人の占有は、自己の新たな占有 (原始的占有) としての側面も有している。 それゆえ、 占有承継人は、自己の占有(固有占有)のみを主張することもできる(187 条 1 項)

  • 22

    占有の承継取得の方法2つ

    引渡しと相続

  • 23

    自己占有の消滅事由2つ

    (1) 占有意思の放棄 第一に、占有意思を放棄すれば、自己占有は消滅する(203 条本文)。占有意思の放棄とは、単に自 己のためにする意思が存在しなくなることではなく、自己のためにする意思をもたないことを積極的に 表示することである。 (2)所持の喪失 第二に、占有物の所持を失った場合にも、自己占有は消滅する(203 条本文)。ただし、占有回収の 訴えを提起し、これに勝訴すれば、消滅しなかったものとして扱われる(同ただし書)。

  • 24

    代理占有の消滅事由3つ

    (1) 代理人に占有させる意思の放棄 第一に、本人が、代理人によって占有しないという意思を積極的に表示する場合に、代理占有は消滅 する(204 条 1 項 1 号) 。 (2) 自己または第三者のために所持する意思の表示 第二に、占有代理人が、本人に対して、以後自己または第三者のために占有物を所持する意思を表示 した場合にも、代理占有は消滅する(同 2 号) 。 (3) 所持の喪失 第三に、占有代理人が占有物の所持を失った場合に、代理占有は消滅する(同 3 号) 。

  • 25

    代理権が消滅した場合、代理占有は消滅するか?

    代理占有は、「代理権の消滅のみによっては、消滅しない」 (204 条 2 項) 。ここでの「代理権」とは、代理占有の原因となった法律関係(賃貸借や寄託などの権原)のことである。そのような法律関係がなくなったとしても、占有代理人は本人に対する返還義務を免れるわけではない。したがって、占有代理 関係は、依然として存在している。

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    問題一覧

  • 1

    物権的請求権とは?

    物権が他人によって侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、物権者が その他人に対して侵害や危険の除去を求める権利

  • 2

    物権的請求権の種類3つ

    ①返還請求権、②妨害排除請求権、③妨害予防請求権

  • 3

    【設例 1】A が所有する甲土地の上に、B が所有する自動車乙が放置されていた。A は、B に乙を引き 取るよう求めた。その際、以下の各事情が存在した。 ① B が甲に乙を乗り捨てていた。 ② B から乙を盗んだ C が、乙を甲に乗り捨てていた。 ③ 乙は、津波により甲に流されてきたものだった。 Ⅰ 問題の所在 物権的請求権によって相手方に何を請求することができるのかについて、伝統的に議論が存在する。 すなわち、相手方に対して、侵害の積極的な除去を求めることができるのか、それとも、請求者自身が する回復行為を消極的に忍容するよう求めることができるにとどまるのか、そして、誰が侵害除去にか かった費用を負担するのか、という議論である。とりわけ、設例 1 の②(第三者が侵害状態を作り出し た場合)や③(不可抗力によって侵害状態が作り出された場合)が問題となる。

    (1) 行為請求権説(判例・従来の通説) 従来の通説的な見解によれば、物権的請求権は、相手方の費用負担での積極的な侵害除去行為を請求 する権利であるとされる。判例も、基本的に、このように考えているものとされている 1。この説の基 礎には、次のような思想がある。 (i) 物権的請求権は、人に対して積極的に請求することができる権利である。 (ii) 侵害の惹起につき不法行為責任を負わない者であっても、侵害の原因を支配していれば、侵害除 去の負担を負うべきである。 (2) 忍容請求権説 とりわけ設例 1 の②や③を念頭に、物権的請求権は、相手方に対して、請求者自身が回復行為をする のを忍容せよと要求する権利に過ぎない、とする。この見解によると、請求者は、自らの費用で回復行 為をした後、侵害を惹起した責任を有する者に対して、不法行為による損害賠償を請求することになる。 この説の基礎には、次のような思想がある。 (i) 物権的請求権は、物権の一作用であり、物に対する追及権であって、人に対して積極的に何かを 求める権利ではない。 (ii) 侵害の惹起につき不法行為責任を負わない者に、侵害除去の負担を負わせるべきではない。 (iii) 設例 1 のような場合には、甲につき A の妨害排除請求権と乙につき B の返還請求権とが、対立 的に存在しているものと考えられる。行為請求権説に立つならば、先に判決を得て執行した方が得をす ることになり、公平に反する。 (3) 責任説 このほか、忍容請求権説に近い見解として、侵害者に不法行為責任要件があれば行為請求権となり、 責任要件がなければ忍容請求権になる、との学説も主張された 2 近時の議論――侵害基準説 (1) 双方侵害の否定 近時の学説においては、忍容請求権説の論者が指摘するような双方侵害は生じていない、との見方が 有力である。設例 1 のような場合には、社会通念に従うと、乙が甲の所有権を侵害していることはあっ ても、甲が乙の所有権を侵害したとは評価されないはずである。B は乙を介して乙の所在地を妨害して いると評価することができるが、A が B の取戻行為を阻止するなど何か積極的な行為に出ないならば、 A が乙を占有していると評価することはできない。したがって、設例 7 においては、A の妨害排除請求 権だけが問題になるとする。 (2) 請求権の内容 そのうえで、近時の学説は、A が有する物権的請求権の内容は行為請求権であるとの見解を踏襲して いる。ここでの問題は、侵害を惹起したことに対する不法行為責任ではなく、継続している侵害を除去 すべき責任であることから、不法行為責任要件を充たさない②・③のような場合にも、B の費用負担が 認められて致し方ないとする。 他方で、 B にも、乙を引き取るための甲への立ち入りを忍容するよう A に要求する権利があるとして いる――このときの A の忍容義務が、信義則ないし相隣関係に基づく義務なのか、物権的請求権の一種 なのかについては争いがある。――。もっとも、A が B の引取り申し出を拒んだ場合には、B にも返還 請求権が認められうるが、この場合にも、A が負う義務は、甲の上にて乙を引き渡すということに留ま り、実際の費用負担は変わらない、とされている。

  • 4

    物権的請求の相手方 原則

    現在の侵害者または侵害のおそれを生じさせている者

  • 5

    【設例 2】A が所有する甲土地に、A が知らないうちに B により乙建物が建てられ、B 名義の保存登記 がされていた。そこで、A は、B に対し、乙を収去して甲を明け渡すよう求めた。ところが、乙は既に B から C へと譲渡されていた。設例 2 において、A は、甲の所有権に基づく返還請求権の行使として(通説)、乙の収去および甲の明渡しを求めている。このとき、A が請求の相手方としなければならないのは、現に乙の所有権を有する C なのか、それとも、登記名義を有する B なのか。上記の原則によれば、現に建物を所有することによって土地を占有し、その所有権を侵害している C を相手方にすべきものと考えられる。それでは、A は、B に対して請求することはできないのか。

    登記名義人責任説(判例 3) 判例は、次のような理由から、「他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて 所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保 有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義 務を免れることはできない」としている。 ① 建物は土地を離れて存立しえず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地 所有者は、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有する。そうすると、土地所有者が建物譲 渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上 建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動にお ける対抗関係にも似た関係ということができる。したがって、自らの意思で登記を経由した建物所有者 は、登記を保有する以上、土地所有者に対して建物所有権の喪失を主張できないというべきである。 ② 登記にかかわりなく実質的所有者を相手方としなければならないとすると、土地所有者は、その 探求の困難を強いられることになり、また、相手方において、たやすく建物の所有権の移転を主張して 明渡しの義務を免れることが可能になる。 ③ 建物譲渡人が所有権移転登記を行うことは、通常、さほど困難なこととはいえず、不動産取引に 関する社会慣行にも合致する。したがって、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主 張し、その建物の収去義務を否定することは、信義にもとり、公平の見地に照らして許されない。

  • 6

    1 未登記建物を譲渡した場合 【設例 3】A が所有する甲土地上に、B は、無権原で乙建物を所有していた。B は、乙の保存登記をし ないまま、これを C に譲渡した。その後、A は、B を相手方として、建物収去・土地明渡しを求める訴 訟を提起し、乙につき処分禁止の仮処分を申し立てたため、裁判所の嘱託により B 名義の所有権保存登 記がされた(最判昭和 35・6・17 民集 14‐8‐1396)。

    (1) 請求否定説(判例 4) 判例によれば、設例 3 のように、未登記建物が譲渡された後に、譲渡人の意思に基づかずに譲渡人名 義の所有権取得登記がされた場合には、譲渡人を請求の相手方とすることはできない。というのは、譲 渡人は、未登記建物の譲渡により確定的に所有権を失うので、その後に自己の意思に基づかない登記が されても、建物所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるからである

  • 7

    仮装名義の場合 【設例 4】A が所有する甲土地の賃借権の無断譲渡を受けた C は、同地上に乙建物を建築し、B との合 意のうえで、B 名義の所有権保存登記をした。そこで、A が B に対して、建物収去・土地明渡しを求め た(最判昭和 47・12・7 民集 26‐10‐1829)。

    判例によれば、建物の所有名義人が、実際に建物を所有したことがなく、単に登記を有するにすぎな い場合にも、この者を相手方とする請求は認められない 6。この場合については、仮装登記につき 177 条の適用が問題とならないことと、パラレルに考えることができる

  • 8

    【設例 2】A が所有する甲土地に、A が知らないうちに B により乙建物が建てられ、B 名義の保存登記 がされていた。そこで、A は、B に対し、乙を収去して甲を明け渡すよう求めた。ところが、乙は既に B から C へと譲渡されていた。 【設例 2-2】設例 2 において、A は、B が建物所有権を譲渡したことを知っていた。 その主観的態様により登記名義人を相手方とすることができない場合があるか。

    (1) 主観的態様顧慮説 177 条の「第三者」における主観的要件による制限になぞらえて、土地所有者に一定の主観的態様が あれば、登記名義人を相手方とすることができない、とする。 (2) 主観的態様不顧慮説 8 第三者に取引を控えるという選択肢のある不動産二重譲渡の場合と異なり、土地所有者は、物権的請 求権を行使しないわけにはいかず、建物譲渡を認識していても、転譲渡などにより誰が現に実質的所有 者であるか知れない可能性もあるのだから、登記によって相手方の明確化を図るべきであり、原則とし て、土地所有者の主観的態様により相手方となる資格を左右すべきでない、とする。

  • 9

    占有の規定の機能4つ

    1 社会秩序維持機能 まず、占有制度には、物の事実的支配を一応尊重・保護することによって、社会の秩序を維持する機 能があるとされる。占有の訴え(占有訴権、197 条以下)が、この役割を果たしている。 2 本権表章的機能 次に、 法は、占有に、 本権(所有権など占有の原因となる権利)の存在を表章する機能を認めている。 権利適法の推定(188 条)・即時取得 9(192 条)・動産物権譲渡の対抗要件(178 条)などが、この機 能に関連する。 3 本権取得的機能 さらに、占有に基づいて本権を取得することが認められている。取得時効(162 条)・動物の占有に よる権利の取得(195 条)・無主物先占(239 条)・遺失物拾得(240 条)・留置権の発生(295 条)などが、これにあたる。 4 物の返還に際しての利害調整機能 最後に、民法は、物権的返還請求権によって占有物を返還しなければならなくなった場合について、 占有者の権利義務を規定して、権利者と占有者の利害調整を図っている(189~191・196 条) 。

  • 10

    占有の成立要件2つ

    ①物の所持 ②自己のためにする意思 (180 条)

  • 11

    物の所持とは?

    物が社会通念上ある者の事実的支配に属すると認められる客観的状態

  • 12

    自己のためにする意思(占有意思)とは?

    物の所持による事実上の利益を自己に帰せしめようとする意思

  • 13

    自己のためにする意思の必要性についての説

    (1) 主観説(通説) 自己のためにする意思が占有の要件である、とする。もっとも、通説的見解によると、この意思の有 無は、純粋に客観的に、物の所持を生じさせた原因(権原)の性質によって決まる。例えば、買主・賃 借人・受寄者などは、物の管理・利用・処分をする者であるから、売買・賃貸借・寄託などの契約は、 自己のためにする意思を基礎付ける権原となる。また、盗人なども、自ら利得する意思を有するのが通 常であるから、窃盗もこの権原となる。

  • 14

    他人を介してする占有の種類2つ

    代理占有(間接占有)と占有補助者(占有機関)

  • 15

    代理占有とは 【設例 5】A は、B との間で、A 所有の甲土地の賃貸借契約を締結し、これを引き渡した。

    占有権は、代理人によって取得することができる(181 条) 。設例 5 において、甲を直接に所持して いるのは B であるが、 B に占有が認められるだけでなく、 A にも B を介した占有が認められる。この B のように、本人 A に代わって占有する者を「占有代理人」、B を介した A の占有を「代理占有」(間接 占有)といい、これに対して、直接に物を所持する場合の占有を「自己占有」(直接占有)という

  • 16

    代理占有の効果は?

    代理占有においては、占有代理人だけでなく、本人にも占有が認められ、それに基づく権利義務を取 得する。したがって、本人について、取得時効期間の進行・動産物権譲渡の対抗要件具備・即時取得・ 占有訴権などが認められる。

  • 17

    代理占有の場合、占有態様の判断対象は誰か?

    代理占有において、占有の平穏・公然・善意・無過失などは、第一次的に占有代理人について判断さ れる。もっとも、第二次的に、本人に悪意などがあるときは、占有代理人が善意であっても、善意占有 者などとしての利益を受けることができないとされる(101 条類推)。

  • 18

    代理占有の要件3つ

    (1) 占有代理人の所持 (2) 占有代理関係(所持者が本人に対して物の返還義務を負う関係)の存在 (3) 占有代理人の「本人のためにする意思」 「本人のためにする意思」とは、物の所持による事実上の利益を本人に帰せしめようとする意思 (4) 本人の「代理人によって占有を取得する意思」 この意思について通説は成立要件としていない 法律行為の代理においても、代理関係があれば、本人が代理人の行為によって法律効果を取得する意思は、問題にならないから

  • 19

    占有補助者(占有機関) 【設例 6】A は、B から甲建物を賃借し、配偶者 C および子 D とともに居住している。

    本人が他人に物を支配させているが、その他人に独立の所持が認められないために、本人だけに占有 が認められる場合がある。このような関係にある他人を、占有補助者(占有機関)という。設例 2 の C や D のほか、店番をしている使用人、法人の代表機関 11などが、その例

  • 20

    占有(権)の承継取得 【設例 7】A は、B から動産甲を買い受け、現実の引渡しを受けた。 占有権の承継取得は可能か?

    1 占有(権)の承継可能性 占有権(占有に対する法的保護)は、個々の占有者の物に対する事実的支配に対して認められるとこ ろ、占有の取得態様は、原始取得が原則的である。しかしながら、182 条以下では、占有権が譲渡可能 な権利とされており、占有(権)の承継取得が認められている。

  • 21

    占有権の承継取得の効果2つは?

    (1) 承継前後の占有の同一性 占有(権)の承継取得が認められるということは、前主の占有と後主の占有との間に同一性が認めら れるということである。これにより、取得時効期間の計算において、前主の占有期間と後主の占有期間 の合算および占有瑕疵の承継が認められ(187 条)、また、動産物権譲渡の対抗要件(178 条)や即時取 得の要件(192 条)となる引渡し(占有の移転)が基礎づけられる。 (2) 承継人の占有の二面性 もっとも、承継人の占有は、自己の新たな占有 (原始的占有) としての側面も有している。 それゆえ、 占有承継人は、自己の占有(固有占有)のみを主張することもできる(187 条 1 項)

  • 22

    占有の承継取得の方法2つ

    引渡しと相続

  • 23

    自己占有の消滅事由2つ

    (1) 占有意思の放棄 第一に、占有意思を放棄すれば、自己占有は消滅する(203 条本文)。占有意思の放棄とは、単に自 己のためにする意思が存在しなくなることではなく、自己のためにする意思をもたないことを積極的に 表示することである。 (2)所持の喪失 第二に、占有物の所持を失った場合にも、自己占有は消滅する(203 条本文)。ただし、占有回収の 訴えを提起し、これに勝訴すれば、消滅しなかったものとして扱われる(同ただし書)。

  • 24

    代理占有の消滅事由3つ

    (1) 代理人に占有させる意思の放棄 第一に、本人が、代理人によって占有しないという意思を積極的に表示する場合に、代理占有は消滅 する(204 条 1 項 1 号) 。 (2) 自己または第三者のために所持する意思の表示 第二に、占有代理人が、本人に対して、以後自己または第三者のために占有物を所持する意思を表示 した場合にも、代理占有は消滅する(同 2 号) 。 (3) 所持の喪失 第三に、占有代理人が占有物の所持を失った場合に、代理占有は消滅する(同 3 号) 。

  • 25

    代理権が消滅した場合、代理占有は消滅するか?

    代理占有は、「代理権の消滅のみによっては、消滅しない」 (204 条 2 項) 。ここでの「代理権」とは、代理占有の原因となった法律関係(賃貸借や寄託などの権原)のことである。そのような法律関係がなくなったとしても、占有代理人は本人に対する返還義務を免れるわけではない。したがって、占有代理 関係は、依然として存在している。