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第二五回　共犯の諸問題１（共犯の錯誤、共謀の射程）

Aiko Kobayashi

問題数 17 • 7/19/2024

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共犯の錯誤とは？

共犯者（背後者）の認識と、実現された事実との間に喰い違いがある場合

共犯の錯誤の一種である共犯の過剰とは？

実行犯が共犯者の認識や共謀を超過・逸脱した場合

（１）具体的事実の錯誤事例１：XがYにAの殺害を教唆し、YがAを銃撃したが弾は外れて予想外のBに命中し、Bが死亡した。事例２：XがYにAの殺害を教唆したが、YがAと間違えてBを銃撃し、Bが死亡した。実行犯Yの罪責は？

単独正犯の場合と同じ処理 A．法定的符合説（判例・通説）の場合　※以下では数故意説を前提　事例１：Aに対する殺人未遂とBに対する殺人既遂　事例２：Bに対する殺人既遂 B．具体的符合説（有力）の場合　事例１：Aに対する殺人未遂とBに対する（重）過失致死　事例２：Bに対する殺人既遂　∵　「その人」を攻撃しているので

事例１：XがYにAの殺害を教唆し、YがAを銃撃したが弾は外れて予想外のBに命中し、Bが死亡した。事例２：XがYにAの殺害を教唆したが、YがAと間違えてBを銃撃し、Bが死亡した。教唆者Xの罪責は？

A．法定的符合説（判例・通説）の場合　　事例１：Aに対する殺人未遂の教唆とBに対する殺人既遂の教唆　事例２：Bに対する殺人既遂の教唆 B．具体的符合説（有力）の場合　事例１：Aに対する殺人未遂の教唆、Bに対しては過失犯の教唆は一般に否定されているので（第23講参照）教唆犯不成立、過失単独正犯が認められる限りで過失致死罪。　事例２：Yにとっては客体の錯誤だが、Xにとっては客体の錯誤ではなく方法の錯誤？　　→そう解するのであれば、教唆犯は不成立で、過失致死罪の成立余地を残すのみ。 ※　客体の具体的特定があれば、Xにとっても客体の錯誤となる事例は想定可能。

（２）抽象的事実の錯誤事例１：XがYにA宅の強盗を唆し、YはA宅に侵入したが予想外にAが留守であったため、金目の物を取って逃走した。事例２：XがYにA宅の窃盗を唆し、YはA宅に侵入したがAに出くわしたので、台所にあった包丁をつきつけて脅して、Aから財物を強取した。 Yの罪責は？

（事例１：住居侵入罪（130前）と窃盗罪（235）、事例２：住居侵入罪と強盗罪（236Ⅰ）が成立

（２）抽象的事実の錯誤事例１：XがYにA宅の強盗を唆し、YはA宅に侵入したが予想外にAが留守であったため、金目の物を取って逃走した。事例２：XがYにA宅の窃盗を唆し、YはA宅に侵入したがAに出くわしたので、台所にあった包丁をつきつけて脅して、Aから財物を強取した。 Xの罪責は？

・法定的符合説からの処理事例１：Xとの関係では、発生事実：窃盗の教唆、認識事実：強盗の教唆　→窃盗と強盗は重なっている（包摂関係）ので、発生した軽い窃盗の教唆について故意（責任）が認められる。事例２：Xとの関係では、発生事実：強盗の教唆、認識事実：窃盗の教唆　→Xの認識している軽い窃盗の教唆の限度で構成要件該当性が認められる。

事例：XがYにA宅への空き巣を唆し、YはA宅に侵入しようとしたが防犯システムが強固で侵入を断念した。もっとも、Yは帰るに帰れないので、隣家のB宅に強盗目的で侵入してBから財物を強取した。 XとYの罪責は？

Yについては、Bに対する住居侵入と強盗が成立。 Xについては、Xの教唆内容と、Yの実現した犯行内容の違いからすれば、Yの犯行はXの教唆に基づくと言えず、因果関係がない →Xは、Yの犯行について客観的に帰責されず、不可罰因果関係を認める場合、続いて故意の問題となり、（法定的符合説に基づけば）Xには事例２と同じく住居侵入と窃盗の教唆が成立。

行為共同説とは？

行為を共同するところに共同正犯の本質を求める説

犯罪共同説とは？

犯罪を共同するところに共同正犯の本質を求める説

犯罪共同説の派生説２つ

完全犯罪共同説部分的犯罪共同説

完全犯罪共同説（不支持）とは？

犯罪共同説において、罪名が異なる場合に共犯の成立を一切認めない説

部分的犯罪共同説とは？

各共同者の意思に不一致があった場合でも、構成要件が同質的で重なり合う限りにおいて共犯の成立を認める説

事例１：XとYが共同してAを攻撃し、Yの攻撃でAを死亡させたが、殺意があったのはYのみの場合行為共同説、完全犯罪共同説、部分的犯罪共同説から考えるとどのような罪が成立するか？

A．行為共同説：傷害致死罪と殺人罪の共同正犯を認める。 B－１．完全犯罪共同説殺人の共同正犯成立、Xには殺人の故意がないため38Ⅱで傷害致死の刑が科される。 B－２．部分的犯罪共同説　重なり合う軽い傷害致死の限度で共同正犯成立、Yには殺人罪の単独正犯が別途成立　→重なり合いの判断基準は、抽象的事実の錯誤における法定的符合説の「実質的重なり合い」と同じ（保護法益と行為態様についての抽象的な構成要件の比較）。ただし、この話は共同正犯の成立（共謀〔とりわけ意思連絡〕と成立する罪名）の問題であり、故意の話とは別であるという理解が有力（たまたま基準が被っているだけという理解）。

（ア）当初から意思連絡が不一致の場合事例１：XとYが共同してAを攻撃し、Yの攻撃でAを死亡させたが、殺意があったのはYのみの場合

Yの罪責：殺人既遂罪が成立＋後述する通り傷害致死の限度でXと共同正犯。 Xの罪責（ⅰ）共謀　意思連絡について、その一致がなければ共謀は認められないが、完全一致が認められる必要はなく、認識が異なっていても、構成要件が重なり合う限度で意思連絡は認められる。　→傷害罪の限度で意思連絡が認められる〔①〕　正犯性（正犯意思）については、実行行為の分担から問題なく認められる。（ⅱ）それに基づく犯罪の実現　傷害の共謀に基づいて傷害致死を実現（結果的加重犯の共同正犯）共犯関係：傷害致死罪の限度で共同正犯が成立、Xには殺人罪の単独正犯〔④〕

事例２：XYが強盗を共謀し、その後Zも見張り役として仲間に引き入れ、計画通り強盗を実行したが、Zは終始強盗ではなく窃盗と思い込んでいた場合

XYの罪責：強盗罪の共同正犯が成立＋後述する通りZとも窃盗罪の限度で共同正犯 Zの罪責（ⅰ）共謀：重なり合う軽い窃盗罪の限度で意思連絡肯定〔①〕＋見張り役の分担（ⅱ）それに基づく犯罪の実現（Zからすれば）窃盗の共謀に基づいて強盗を実現している。厳密に言えば、XYZ間の意思連絡と、XYが実行した犯罪内容を比較する必要があると思われるが、現場の犯行態様が窃盗か強盗かの違いに過ぎなければ、共謀の射程が否定されることは考えられない。（ⅲ）Zの故意：発生事実が強盗（の共同正犯）、認識事実が窃盗（の共同正犯）の抽象的事実の錯誤→窃盗の限度で故意（責任）が認められる。

（イ）共謀後に過剰な行動に出た場合事例３：XとYが空き巣を計画し（A宅の選定、間取り、スケジュールなどはXが調査）、実行犯YがA宅に侵入したが、予想外にAと出くわし、YはAから財物を強取したほか、Aに強制わいせつを行った。

Yの罪責：住居侵入の共同正犯、強盗（窃盗の限度でXと共同正犯）、強制わいせつの単独正犯 Xの罪責：住居侵入の共同正犯については、実行行為を分担していないこと（共謀共同正犯の成否）以外の問題はない。〔Ⅰ〕Xの強盗について（ⅰ）共謀：窃盗の意思連絡〔①について特に問題はない〕＋正犯性（ⅱ）それに基づく犯罪の実現　窃盗の共謀だったのにYが過剰な強盗を実現。共謀の射程〔②〕が問題。　→事例の詳細にもよるが、本問の類型の事案で通常射程が否定されることはない。（ⅲ）故意〔③〕：発生事実が強盗、認識事実が窃盗（の共同正犯）の抽象的事実の錯誤 →窃盗の限度で故意（責任）が認められる。〔Ⅱ〕Yの強制わいせつについて（ⅲ）故意〔③〕：発生事実が強制わいせつ、認識事実が窃盗の抽象的事実の錯誤　→重なり合いがないので故意（責任）が認められない。

（イ）教唆の故意で間接正犯を実現する場合事例３：医師Xは、毒薬を看護師Yに渡して、Aに投与させようとした。Yは、Xの行動を冗談だと誤解し、毒薬ではないと思ってそれを投与したところ、Aは死亡した。

Yの罪責：業務上過失致死罪の可能性 Xの罪責：発生事実は被利用者の過失を利用した殺人の間接正犯、認識事実は殺人教唆 →実質的に重なり合う軽い殺人教唆の限度で犯罪が成立。

第二五回 共犯の諸問題１（共犯の錯誤、共謀の射程）

第二五回　共犯の諸問題１（共犯の錯誤、共謀の射程）