財務 理論

財務 理論
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    __________ p1

    第1章 財務会計の機能と制度

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    企業会計の2領域 p2

    会計という言葉を敢えて定義すれば,一定組織の経済活動を貨幣的単位で測定し,その経済活動の内容及び結果を報告する手続きといえる。ここで,会計の対象となる一定組織には,家庭,学校,企業等の様々な組織が含まれるが,これらのうち企業*¹の経済活動を対象とする会計のことを「企業会計」といい,会計学の対象とされる。そして,企業会計は,会計情報の報告対象となる利用者の観点から,財務会計(外部報告会計)と管理会計(内部報告会計)に分類される。 財務会計  企業外部の株主,債権者等(利害関係者)に対し,彼らの利害を調整する会計情報を提供することを目的とする。また,企業外部の投資家に対し,投資意思決定を可能にさせる会計情報を提供することを目的とする。 管理会計  経営者を中心とする企業内部の管理者に対し,経営活動の良否を評価する会計情報を提供することを目的とする。 *¹)企業は,一般に,株式会社が前提とされる。

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    財務会計の報告対象 p3

    財務会計の報告対象は様々考えられるが,代表的な報告対象としては,投資家(投資者),株主,債権者を挙げることができる。  まず,投資家とは,証券市場で取引される株式や社債等に投資する者をいい,これらを現に保有する者だけでなく,これらを保有する可能性のある者を含む。  次に,株主とは,株式会社の出資者として株式を所有している者をいい,企業の業績を反映する配当(剰余金の分配)の多寡及び株価の高価に関して利害関係をもつ。  最後に,債権者とは,債務者に対して一定の給付をなすべきことを請求しうる者をいい。提供した資金に関する企業の返済能力及び利息支払能力に関して利害関係をもつ。

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    情報提供機能 p4

    情報提供機能とは,投資家の意思決定に有用な情報を提供する機能をいう。 (1)情報提供(投資家保護)の必要性  今日,企業の活動に必要な資金の多くは,投資家により成立する証券市場から調達されており,証券市場が円滑に機能することが,企業ひいては経済社会の運営にとって重要になっている。  ここで,証券市場において取引される株式や社債の価格は,一般に,発行企業の収益性や安全性に左右される。そのため,発行企業の収益性や安全性についての情報が投資家に提供されなければ、投資家は,株式や社債の購入・保有・売却についての判断,すなわち投資意思決定を行うことができず,その結果,証券市場は機能しなくなってしまう*¹。  したがって,証券市場を円滑に機能させるためには,発行企業の収益性や安全性についての情報を投資家に提供し,投資意思決定を可能とする必要がある*²。 (2)財務会計の公的な役割  例えば,優良会社(弛まぬ努力により社会に貢献する黒字会社)と劣悪会社(努力を怠り社会に貢献しない赤字会社)があるとする。この場合,個々の投資家の投資意思決定は,自らの経済的利益に関する合理的な判断に基づき,「優良会社には投資するが,劣悪会社には投資しない」となるはずである。そして,個々の投資家の投資意思決定の集積として,経済全体の資金配分は「優良会社には資金が提供され,劣悪会社には資金が提供されない」となるはずである。  このように,投資家は,あくまでも個々の経済的利益に関する合理的な判断に基づき投資意思決定を行うが,その結果は経済全体の資金配分に重要な影響を及ぼすことになる。したがって,投資家に情報を提供することは,単なる投資家保護に留まらず,市場メカニズムを利用した効率的な資金配分の促進にも繋がるといえる。 *¹)市場で取引される財貨の品質について,売手が買手に対して積極的に情報を提供し,情報の非対称性を解消しなければ,その市場はやがて崩壊するといわれる。この命題は、アカロフ(G.A.Akerlof )の「レモンの市場」という題名の論文で証明されている。なお、この論文においてレモンは,外見上はオレンジに似ているが,中身は酸っぱくて食べられないという意味で,欠陥品のたとえに用いられている。 *²)投資家への情報提供を「投資家保護」と呼ぶこともある。

  • 5

    利害調整機能 p5

    利害調整機能とは,企業を巡る利害関係者の利害対立を解消又は調撃する機能をいい,一般に,株主・経営者間と株主・債権者間の利害調整が議論される。 (1)株主・経営者間の利害調整  株主と経営者は,株主の資金の運用について委託・受託の関係(エージェンシー関係)にあり,受託者たる経営者には,委託者たる株主の意向に添って経営活動を行う責任(受託責任)がある。  しかし,経営者には受託責任を果たさない可能性がある(株主の利益を犠牲にする*¹可能性がある)ため,両者の利害は対立することとなる。 この利害対立を解消するために,経営者は,財務諸表を作成し,株主から運用を委託された資金をどのように運用し,どれだけの利益をあげたのかを株主に報告する(会計報告)。これにより,一方で,経営者は自らが受託責任を果たしたことを株主に伝達することができ,他方で,株主は自らの資金の運用が適切になされているか否かを判断することができる。 (2)株主・債権者間の利害調整  配当の増加は,株主にとっては望ましいが,会社財産の減少を招き債務不履行の危険性を高めるため*²,債権者にとっては望ましくない。このように,配当の金額を巡り両者の利害は対立するが,配当の金額の決定権は基本的に株主にあり,株主により債権者の利益を害するほどに多額の配当が決定されるおそれがある。 この利害対立を調整するために,会社法第 461条においては,分配可能限度額の規制による債権者保護が図られており,その計算基礎として財務諸表の作成は不可である。また,会計報告により,株主と債権者にこの規制の遵守が明らかにされる*³。 *¹)受託責任を果たさない(株主の利益を犠牲にする)行為の例としては,経営者が自らの利益を優先させる目的の交際費の過大支出等が挙げられる。 *²)株主の責任は出資額を限度とする有限責任である。 *³)株主と債権者の利害調整を「債権者保護」と呼ぶこともある。

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    制度会計と非制度会計 p6

    財務会計が適切に実施されず,投資家に情報が提供されなければ,投資家は投資意思決定を行うことができず,結果として,企業への資金提供が縮小されることになる。このような事態は,企業活動の停滞,ひいては国民経済の衰退を招きかねないため,我が国では,特定の外部報告に対して法律上の規制をおいている。このような法律で規制されている財務会計を制度会計という。  一方で,企業が,法律の枠組みを超え,自らの利害関係者あるいは社会との関係を良好にする等の目的で,自発的に外部報告を行うことは禁止されていない。むしろ近年は,企業が投資家を対象に積極的な情報開示(1R:インベスター・リレーションズ)を行うことが多くなっている。このような企業が自発的に行う外部報告を非制度会計という。

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    我が国の制度会計 p6-7

    我が国の制度会計を規制する法令には,会社法,金融商品取引法,税法(主に法人税法)の3つがあり,各法令による制度会計を,会社法会計*¹,金融商品取引法会計*²,税務会計*³という*⁴*⁵。  なお,金融商品取引法に基づく企業の財務情報の公表制度は,企業内容開示(ディスクロージャ一)制度と呼ばれる。 *¹)我が国では,財務会計の利害調整機能は,主として会社法会計により遂行されているといわれる。 *²)我が国では,財務会計の情報提供機能は,主として金融商品取引法会計により遂行されているといわれる。 *³)税務会計は,課税の公平を基本理念とする税法の規定に従い,課税所得の計算を目的とする会計である。詳しくは「租税法」にて学習されたい。 *⁴)会社法は,すべての会社を対象としており,すべての会社が会社法会計を行う。他方,金融商品取引法は,株式や社債等の有価証券を証券市場に流通させている会社(上場会社)を対象としており,上場会社のみが金融商品取引法会計を行う。 *⁵)財務会計論の理論(財務諸表論)では,主として金融商品取引法会計について学習する。

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    制度会計の会計規定 p7

    金融商品取引法においては,証券市場を円滑に機能させるため,網羅的かつ詳細な会計規定が用意されている。具体的には,「企業会計原則」をはじめとする諸々の会計基準が会計処理方法及び表示方法を,「財規」等の規則及び同ガイドラインが表示方法を規定している。また,実務対応報告や適用指針(実務指針)がより詳細な会計処理方法及び表示方法を規定している。  これに対し,会社法においても,各種利害調整の観点から独自に計算規定が用意されているが,企業会計全般に関する網羅的なものではない。具体的には,「会社法」及び「会社計算規則」等の法務省令が会計処理方法及び表示方法を規定している。  なお,金融商品取引法会計と会社法会計では,基本的には同じ会計処理や表示が行われるように,規定内容の調整が行われている。

  • 9

    GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)の必要性 p8

    企業が開示する財務諸表の社会的な重要性は高いため,虚偽情報が開示された場合には,財務諸表利用者が大きな損害を被る可能性や適切な意思決定を行えない可能性がある。  ここで,財務諸表の作成を全面的に経営者に任せた場合,経営者が自らの利益のために財務諸表の数値を操作し虚偽情報を開示する可能性がある。また,そのような意図はなくとも,財務諸表が経営者の個人的な判断に基づいて作成された場合,その情報の質が区々となり,財務諸表利用者がその内容を理解することが困難となる可能性がある。さらに,GAAPが存在しなければ,財務諸表監査を行うにあたり,財務諸表の適正性に関する判断を監査人の個人的な尺度に依らざるを得なくなり,結局,財務諸表利用者を混乱させることになりかねない。  そこで,虚偽情報を排除し,情報の等質性を確保し,さらには財務諸表監査上の判断規準とするために,社会的な会計規範としてGAAPが必要とされる。

  • 10

    我が国のGAAP p8

    我が国が戦後まもなく,アメリカを参考にGAAPとして制定したのが「企業会計原則」である。「企業会計原則」は,財務諸表の作成にあたって準拠すべき基準として,また,財務諸表監査を行うにあたっての判断基準として機能することを期待されていた。  現在,我が国のGAAPには,企業会計基準委員会(ASBJ*¹)及び企業会計審議会が公表してきた種々の会計基準・意見書が含まれる。 *¹)Accounting Standards Board of Japan の略。

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    会計基準の国際的な調和 p8

    (1)会計基準のコンバージェンス(収斂)  近年,国際的に会計基準のコンバージェンスに向けた取組みが活発になっており,我が国でも相当の努力がなされている。特に,2007年8月に公表された国際会計基準審議会(IASB*¹)との間の東京合意*²以降,その取組みが加速しており,その結果,我が国の会計基準は、高品質かつ国際的に遜色のないものであり,国際財務報告基準(IFRS*³)と同等との評価も受けている。 (2)IFRSの取込み(「連結財規」第93条,第94条)  IFRSの取込方法は各国様々であるが,多くの国・地域ではエンドースメント(個別基準を個々に検討し,一部の会計基準等を削除又は修正して採択する)が導入されている。  我が国では,2010年3月期から,一定の要件を充たす企業において,金融庁長官が「指定国際会計基準」として定めたIPBSの任意適用が開始されている。「指定国際会計基準」は,IASBが策定した一部の基準を指定しないこともできる*⁴という点では一種のエンドースメントといえるが,一部の基準を修正する手続を念頭に置いた規定ではないことから,実態的にはピュアなIFRSのアドブション(採用・導入)であるともいわれる。この点,一方で,ピュアなIFRSを適用する意図で既に任意適用している企業も存在することから,ピュアなIFRSの適用を維持する必要もあるが,他方で,我が国における会計基準に係る基本的な考え方(企業の総合的な業績指標としての当期純利益の有用性を保つこと等)と合わない場合又は実務上の困難さがある場合に、我が国に適したIFRSといった観点から,エンドースメントの仕組みを設けることも必要と考えられる。これにより,我が国においてもIFRSをより柔軟に受入可能となるとともに,削除又は修正を通じて我が国の考え方を意見 発信可能となると考えられるからである。  そこで,我が国においてもIFRSのエンドースメントが行われ,2015年6月に「修正国際基準(IFRSとASBJによる修正会計基準によって構成される会計基準)」が公表された。 (※17) (※18) (※19) *⁰)Financial Accounting Standards Board の略。(財務会計基準審議会:FASB) *⁰)Accounting Standards Codification の略(米国基準:ASC) *⁰)Japan's Modified International Standardsの略。(修正国際基準:JMIS) *¹)International Account ing Standards Boardの略。 *²)会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意のこと。 *³)International Financial Reporting Standardsの略。 *⁴)現在はすべてが指定されている。

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    __________ p11

    第2章 財務会計の基礎概念

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    会計基準を設定するアプローチ p12

    帰納的アプローチ 意義   実際に行われている会計処理方法を観察し,その中から一般的又は共通的なものを抽出することによって,会計基準を設定する方法 代表例「企業会計原則」*¹ 演繹的アプローチ 意義   会計の前提となる仮定や会計の目的を最初に規定し,これらの仮定や目的と首尾一貫するように具体的な会計処理のルールを導出する方法 代表例「概念フレームワーク」  帰納的アプローチにより設定された会計基準は,広く普及した会計実務から構成されるため,遵守され易いが,一方で,会計実務に問題があっても問題を改善するような会計基準は形成されにくい。また,基準全体の整合性や首尾一貫性が確保される保証がない等の問題がある。このような帰納的アプローチの問題を解消し,会計基準を理論的に体系付けるために,演繹的アプローチが主張される。 *¹)「企業会計原則」の前文には「企業会計原則は,企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから,一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって,必ずしも法令によって強制されないでも,すべての企業がその会計を処理するに当って従わなければならない基準である。」と記載されている。

  • 14

    会計公準 p12-13

    会計公準とは,会計の理論的な基礎構造を構成する命題であり,それなくしては会計が成立しないという意味で,会計理論や会計実務の最も基礎的な前提とされる。会計公準としてどのような命題を取り上げるべきかについては諸説あるが,最も一般的と考えられるのは,企業実体の公準,継続企業の公準,貨幣的評価の公準からなるギルマンの三公準である。 企業実体の公準  企業に投下された財産と資本についてだけ記録と計算を行うという会計の対象範囲を限定するもの (個別財務諸表・連結財務諸表) 継続企業(会計期間)の公準  企業は継続的に営業活動を営むという仮定の下で*¹,人為的に定めた一定の会計期間に区切って期間計算を行うという会計の対象を時間的に限定するもの(事業年度(1年)・四半期(3ヶ月)) 貨幣的評価(貨幣的測定)の公準  会計上の記録・計算・表示にあたっては、統一的に貨幣単位を用いるという基礎的前提(円・ドル・ユーロ) *¹)一般に公正妥当と認められる企業会計の基準は継続企業を前提としているが,そのような企業会計の基準に準拠して作成された財務諸表が企業の将来の事業活動の継続を保証するという訳ではない。そこで,企業の将来の事業活動の継続に関するリスクの存在を開示するため,経営者は,継続企業の前提に関する開示を行う (「財規」第8条の27)。詳しくは「監査論」にて学習されたい。

  • 15

    会計主体論 p13

    会計主体論とは,企業と出資者の関係をいかに解釈し,会計上の判断を出資者と企業のいずれの立場から行うべきかを考察するものである*¹。代表的な見解として,資本主理論と企業主体理論がある。 資本主理論*²   意義  企業を資本主のものと捉え,会計の主体を資本主であるとする立場。  資本主理論では,企業の資本はすべて出資者のものであり,その金額は出資者にとっての正の財産から負の財産を控除して算定される。貸借対照表上は,正の財産は資産の部に,負の財産は負債の部に記載され,その純額は,資本主に帰属する部分として純資産の部に記載される。 資本等式:資産−負債=資本   企業主体理論*³  企業を資本主とは別個独立の存在と捉え,会計の主体を企業それ自体と考える立場。  企業主体理論では,自己資本(資本・返済不要)は,他人資本(負債・返済必要)と合わせて,資産の形で運用されていると位置付けられる。貸借対照表は,資金の調達源泉(貸方)と運用状況(借方)を対照表示することにより,企業の財政状態を描写していると考えられる。 貸借対照表等式:資産=負債+資本 *¹)会計主体論(資本主理論や企業主体理論)は,企業会計上,企業をどのようにみるかという企業観を探求し,さらに,そこから会計処理等を考察するものである。したがって,会計主体論は,企業という実体が資本主とは別個に存在した計算構造であること,つまり,企業実体の公準を前提とした議論であると考えられる。 *²)現行の企業会計では株主に帰属する純利益が計算されている。また,資本助成目的の国庫補助金は払込資本とされていない。さらに,株主に帰属する金額だけが株主資本とされている。そのため,現行の企業会計では,会計上の判断は株主の観点から行われている(資本主理論)といわれる。 *³)伝統的な会計理論は,企業主体理論の立場に立っていたといわれる。

  • 16

    貸借対照表観 p14

    貸借対照表観とは,貸借対照表の本質の捉え方に関する議論であり,時代とともに変遷している。  17~20世紀初頭においては,企業は小規模であり,倒産が多かったため,企業会計には,企業の債務弁済能力を開示することにより,債権者を保護することが期待されていた。そのため,貸借対照表は,企業の財産価値.(解散価値)を表示するものと位置付けられていた(静態論)。  20世紀以降においては,証券市場の発達により,一方で企業が大規模化して倒産が減り,他方で投資家が出現したため,企業会計には,企業の収益力を開示することにより,投資家を保護することが期待されるようになった。そのため,貸借対照表は,期間損益計算との関わりで意義を有することになり,収支と損益の期間帰属のズレを収容する残高表(ないし収入・支出と収益・費用の間の未解決項目を収容する表*¹)と位置付けられるようになった(動態論)。 静態論的会計 会計の目的  債務弁済能力の開示による債権者保護 →資産・負債の実地調査と時価評価により企業の財産価値を明らかにする。  貸借対照表の本質  企業の財産価値(解散価値)を表示するためのもの 資産の概念  換金可能なもの(繰延資産は計上できない)  資産の分類と評価  [分類]流動・固定分類  [評価]売却時価*² 制度会計との関連  会社法会計は静態論の特色を残すといわれる。 動態論的会計 会計の目的  収益力の開示による投資家保護 →適正な期間損益計算により企業の業績を明らかにする。 貸借対照表の本質  企業の財産価値(解散価値)を表示するためのもの 資産の概念  適正な期間損益計算で必要とされるもの(繰延資産は計上できる) 資産の分類と評価 [分類]貨幣性•費用性分類 [評価]貨幣性資産:回収可能価額     費用性資産:取得原価*³ 制度会計との関連  金融商品取引法会計は動態論に基づくといわれる。 *¹)より厳密には,貸借対照表は「収入・支出と収益・費用の間の未解決項目と支払手段(貨幣)及び資本を収容する表」と理解される。 *²)静態論的会計では,企業の債務済能力を示すべく,資産は売却時価により評価される。また,企業の短期支払能力を明示するため,資産は,流動資産と固定資産に分類されることになると考えられる。 *³)動態論的会計では,損益計算との関わりが重視されるため,資産は貨幣性資産と費用性資産に分類され,貨幣性資産は回収可能価額で,費用性資産は取得原価で評価されることになる。ただし,金融商品取引法会計において,資産は,貨幣性・費用性分類ではなく,流動・固定分類により表示されている。

  • 17

    収益費用アプローチと資産負債アプローチ p15

    会計における利益の見方(利益観)は,収益及び費用(フロー)を中心にする収益費用アプローチと資産及び負債(ストック)を中心にする資産負債アプローチに大別される。  収益費用アプローチとは,一会計期間における企業の活動成果である収益と,それを得るための犠牲分たる費用の差額を期間利益(純利益*¹)とする考え方である。収益費用アプローチにおいては,収益及び費用の概念,さらにはその認識基準や測定基準が会計の中心的課題となるため,資産及び負債について貸借対照表日現在の価値を直接測定することがない。したがって,貸借対照表上の資産及び負債は,貸借対照表日現在の経済的実態を必ずしも表示しない。  他方,資産負債アプローチとは,資産と負債の差額である純資産の当増減額から資本等取引による当期増減額を控除した残額をもって期間利益(包括利益*²)とする考え方である。資産負債アプローチにおいては,資産及び負債の概念,さらにはその認識基準や測定基準が会計の中心的課題となる。 *¹)純利益については,分配可能利益を重視する立場と業績表示利益を重視する立場がある。 *²)包括利益を期間利益とした場合,例えば,その他有価証券評価差額金は,期間利益に含められた上で純資産に加減されることになる。

  • 18

    我が国の制度会計のアプローチ p16

    収益費用アプローチと資産負債アプローチは,いわば利益計算の2つのモデルであり,どちらかー 方によってのみ制度会計が形作られなければならないというわけではない*¹。「企業会計原則」等の我が国の従来の会計基準は収益費用アプローチに基づいていたが,近年,国際的には資産負債アプロニチが主流となったことから,我が国で近年公表されている会計基準も,資産負債アプローチに基づく会計処理を大幅に取り入れている。 *¹)概念フレームワーク」は,どちらか一方のアプローチに立っているわけではないといわれる。

  • 19

    損益計算書と貸借対照表の連繋 p16

    損益計算書と貸借対照表の基本的な関係として,クリーン・サープラス関係が指摘される。クリーン・サープラス関係とは,損益計算書で計算される期間損益と貸借対照表の純資産の一会計期間における増減額が一致するという関係*¹をいい,この関係が成立する損益計算書と貸借対照表の関係は,損益計算費と貸借対照表の連繋と呼ばれる場合がある。  なお,収益費用アプローチ及び資産負債アプローチのいずれにおいても,基本的には損益計算書と貸借対照表は連繋していると考えられる。 *¹)資本取引による株主資本の払込や払出がないことが前提。

  • 20

    我が国における損益計算書と貸借対照表の連繋 p17

    我が国の制度上,損益計算書で計算される期間損益(純利益)と貸借対照表の純資産の一会計期間における増減額は、その他有価証券評価差額金等の項目の存在により不一致となっており,クリーン・サープラス関係が成立していない。したがって,我が国の制度上,損益計算書と貸借対照表は非連繋であると指摘されることがある*¹。  ただし,「包括利益基準」*²により,我が国においても包括利益の表示が導入された。 「包括利益基準」における損益及び包括利益計算書を前提とすると,次のようになると考えられる。 *¹)クリーン・サープラス関係(ないし損益計算書と貸借対照表の連)を,損益計算書で表示される期間利益と貸借対照表の株主資本の一会計期間における増減額が一致する関係と理解し,我が国の制度上,クリーン・サープラス関係は成立している(ないし損益計算書と貸借対照表は連繋している)と主張する立場もある。 *²)平成22年6月30日公表(平成23年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から基本的に適用),最終改正平成24年6月29日(平成24年6月29日以後適用)。なお,当面の間,個別財務諸表には適用しないこととされている。

  • 21

    金融投資と事業投資 p18

    企業の投資活動は、投資の性質(企業が投資活動に何を期待しているか)により、時価の変動によって利益を獲得することを目的とした金融投資と,事業の遂行を通じて成果を得ることを目的とした事業投資に大別される。他方,企業の投資活動の対象となる資産は,その外形的な性質に従い,金銭債権・有価証券等の金融資産と,原材料・商品・建物・機械等の非金融資産に大別される。なお,非金融資産のうち事業投資目的のものは事業資産と呼ばれる*¹。  ここで,損益計算は,投資の成果計算であるから,投資の性質により異なる。また,資産評価は,損益計算と表裏の関係にあるため,これも投資の性質により異なる。 表参照 *¹)伝統的には,資産は「貨幣性資産」と「費用性資産」に分類するのが一般的であったが,近年では,「金融資産」と「非金融資産(または事業資産)」に分類するのが主流となってきたようである。受験上は,「貨幣性資産=金融資産」「費用性資産=非金融資産(または事業資産)」と考えておけばよい。

  • 22

    __________ p19

    第3章 「企業会計原則」の一般原則

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    総論 p20

    「企業会計原則」は「第一 一般原則」「第二  損益計算書原則」「第三 貸借対照表原則」という3つの部分から構成されている。これらのうち「第一 一般原則」は,企業会計の全般に共通する一般的な規範をとりあげたものである。  「企業会計原則」は「第一一般原則」において,真実性の原則,正規の薄記の原則,資本取引損益取引区分の原則,明瞭性の原則,継続性の原則,保守主義の原則,単一性の原則という7つの一般原則を定めている。また,一般原則とはしていないが,重要性の原則を定めている(「企業会計原則」注1)。

  • 24

    真実性の原則(「企業会計原則」第一・一) p21

    真実性の原則は,企業の財政状態及び経営成績に関して真実な報告を提供しなければならないとする原則であり,企業会計の最高規範である。真実性の原則における真実な報告は,会計諸基準等を遵守することによって確保される。  真実性の原則における真実は,以下のような理由から,唯一絶対的・普遍的な真実ではなく,相対的な真実であるといわれる。 会計の目的適合性 「企業会計原則」は,一般に公正妥当と認められた会計処理等を帰納要約したものであり,その時代における社会規約として存在する。そして,当該規約は,その時代における会計の目的を達成することを前提として成立している。 したがって,時代の変化により会計の目的が変化すれば,真実の内容も変化する。 期間損益計算の暫定性  期間損益計算においては,貸倒引当金の設定等をはじめとする主観的な見積りを排除することはできない。そのため,真実の内容は,見積りにより異なるという意味で相対的なものとなる。また,見積りは後日修正されることもある。その意味でも真実の内容は相対的なものとなる。 代替的会計処理方法の容認  「企業会計原則」は,様々な企業がこれに従って業績を適正に開示することができるよう*¹、同一の会計事実に対して代替的な会計処理方法を容認している(減価償却(定額法と定率法))*²。 同一の会計事実であっても、採用する会計処理方法が異なれば、会計数値は異なるため、真実の内容は相対的なものとなる。 *¹)企業会計をする規則として「企業会計原則」が社会に承認されるためには,様々な業種業態の企業が「企業会計原則」に従って会計処理することにより,業績を適正に開示することができなければならない。 *²)経営者には,認められた会計処理方法の中から,自社の業種業態に最も適合する会計処理方法を選択することが求められる(経理自由の原則)。

  • 25

    正規の簿記の原則(「企業会計原則」第一・二) p21-22

    正規の簿記の原則は,すべての取引につき正規の簿記の原則に従って正確な会計帳簿を作成しなければならないとする原則である。  正規の簿記の原則は,基本的に,帳簿記録を行う際の要件(正規の簿記の3要件)を指示していると解される。なお,一般に,複式簿記*¹による記録は,この3要件を充足するといわれる。  (正規の薄記の3要件) 1 網羅性:会計帳簿に記録されるべき取引が,漏れなく記録されていること。 2 検証可能性:すべての会計記録が何らかの会計証憑によって裏付けられていること。 3 秩序性:会計記録が一定のきまりに従って,組織的に連絡していること。 *⁰)正規の毎記の原則は,(文言上は、会計処理について触れていないが)正しい会計処理についても要求していると解される場合がある(Ⅲ.重要性の原則参照)。 *⁰)財務諸表(貸借対照表)の作成方法には棚卸法(期末に帳簿を離れてすべての資産・負債を実地調査し、財産目録を作り,これに基づいて貸借対照表を作成する方法)と誘導法(帳簿記録を基礎にして,貸借対照表を作成する方法)とがあるが,正規の簿記の原則は,(帳簿記録から誘導して財務諸表を作成することについても要求していると解される場合がある。 *¹)複式簿記では貸借を分けて記録するのに対し,単式簿記では貸借を分けて記録しない。単式簿記の記録システムとしては,例えば,多桁式の現金出納帳のみですべての取引を記録するシステムが考えられる。  単式簿記による記録は,正規の簿記の3要件を充足すれば「正規の簿記」として認められるが,単式簿記により「正規の簿記」の3要件を充足することができるのは,非常に小規模な企業に限られるである。

  • 26

    資本取引類益取引区分の原則(「企業会計原則」第一・三,注2) p22-23

    資本取引損益取引区分の原則(剰余金区分の原則)は,資本取引と損益取引とを明瞭に区別し,特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならないとする原則である。  企業会計においては,企業活動の成果である期間損益を適正に計算することを第一義的に考える必要があるが,株主資本*¹を増減させる取引のうち,利益の獲得を目的とする損益取引のみが企業活動の成果となる取引であり。株主資本を直接的に変化させることを目的とする資本取引*²は企業活動の成果となる取引ではない。したがって,両取引を区別することにより,期間損益計算の対象を確化することができるのである。  また,資本取引損益取引区分の原則においては,元本たる資本のうち資本金以外の部分である資本剰余金と企業内に留保されている利益である利益剰余金の混同禁止も要請され,株主資本を企業の元本である払込資本と元本を運用して増加させた果実である留保利益に区別することが要請されている。 これは,会計理論上は,配当の金額を巡る株主と債権者の利害対立は,払込資本を配当不能,留保利益を配当可能として,両者を区別することにより調整が図られると考えられるためである*³。 *¹)「概念フレームワーク」において,株主資本は,純資産のうち報告主体の所有者である株主(連結財務諸表の場合には親会社株主)に帰属する部分と定義されている。 *²)一般に,資本取引は,報告主体の所有者である株主との直接的な取引であることが前提とされる。 *³)現行の会社法上は,払込資本の一部である「その他資本剰余金」を原資とした配当が認められているため,払込資本と留保利益の区別による利害調整は実効性が乏しいといわれることがある。これを受け,近年は,元本(払込資本)と果実(留保利益)を区別した情報は,投資家が過年度の企業業績の良否や企業の投資効率等を判断する際に有用であると,情報提供の観点から,両者の区別の必要性が説明されることもある。

  • 27

    明瞭性の原則(「企業会計原則」第一・四) p23-25

    明瞭性の原則は,財務諸表によって利害関係者に対し必要な会計事塞を明瞭表示し,企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならないとする原則である。つまり,明瞭性の原則は,財務諸表の利用者が企業の財政状態及び経営成績の判断を誤ることのないように報告することを要請する原則であり,企業会計の報告機能に関するものである。具体的には,次のようなものがある*¹。 1)損益計算書,貸借対照表の形式や表示方法 ・区分損益計算書の作成(「企業会計原則」第二・二,「財規」第70条) ・貸借対照表の区分表示(「企業会計原則」第三・二,「財規」第14条) ・総額主義による表示(「企業会計原則」第二・一B,「企業会計原則」第三・一B) 2)「企業会計原則」上の重要事項の注記(「企業会計原則」第三・一C,四(三)A) ・受取手形の割引高又は裏書譲渡高 ・保証債務等の偶発債務 ・債務の担保に供している資産 ・発行済株式1株当たり当期純利益及び同1株当たり純資産額 ・発行済株式の数を普通株,優先株等の種類別に注記 (3)重要な会計方針の開示(「企業会計原則」注1-2,「開示変更正基準」4,「財規」第8条の2  会計方針とは,財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続*²)をいい。重要な会計方針は注記しなければならない。その例としては次のものがある。 ・有価証券の評価基準及び評価方法 ・棚卸資産の評価基準及び評価方法 ・固定資産の減価償却の方法 ・繰延資産の処理方法 ・外貨建の資産及び負債の本邦通貨への換算基準 ・引当金の計上基準 ・収益及び費用の計上基準 ・ヘッジ会計の方法 ・キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲 ・その他財務諸表作成のための基本となる重要な事項  重要な会計方針の注記目的は,同一の会計事実に対し代替的な会計方針が認められている場合にはいずれの会計方針を採用するかにより財務諸表の数値は異なることから*³,財務諸表作成の前提又は基礎を注記することにより,財務諸表利用者の正しい理解を促進することにある*⁴。  なお,様々な注記事項がある場合には,まず重要な会計方針の注記を記載し(継続企業の前提に関する注記が記載される場合を除く),その後に他の注記事項を記載する。 (4) 重要な後発事象(「企業会計原則」注1-3,「財規」第8条の4,「同ガイドライン」8の4)  後発事象とは,貸借対照表日後に発生した財務諸表提出会社の翌事業年度以降の財政状態。経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象をいい、重要な後発事象は注記しなければならない(開示後発事象)*⁵。その例としては次のものがある。 ・火災,出水等による重大な損害の発生 ・多額の増資又は減資及び多額の社債の発行又は繰上償還 ・会社の合併,重要な営業の譲渡又は譲受 ・重要な係争事件の発生又は解決 ・主要な取引先の倒産 ・株式併合及び株式分割  利害関係者は財務諸表を企業の将来の業績を予測するために用いる。後発事象は,財務諸表の対象とする期間後に発生した事象ではあるが,企業の将来の業績子測に役立つ情報であるため,重要なものは補足情報として注記が必要とされる。 (5)附属明細表の作成(「財規」第121条)  附属明細表は,主要項目について期末残高の内訳明細又は期中の増減額等を明確にする目的で作成されるものであり,個別財務諸表を前提とすると,①有価証券明細表*⁶,②有形固定資産等細 表,③社債盟細表,④借入金等明細表, ⑤引当金細表,⑥資産除去債務細表がある*⁷。 *¹)利害関係者が会社の財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合には,その事項を注記する(「財規」第8条の5)。 *²)従来,会計方針は表示方法を包括する概念と考えられてきたが,「開示変更正基準」では,コンバージェンスの観点から,会計方針と表示方法が別々に定義された。 *³)会計基準等の定めが明らかであり,当該会計基準等において代替的な会計方針が認められていない場合には,会計方針に関する注記を省略することができる(「開示変更訂正基準」4-6)。 *⁴)会計処理の対象となる会計事象等に関する会計基準等の定めが明らかでない場合(特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合)にも,採用した会計方針を開示する。 *⁵)実務上は,注記によって開示される重要な後発事象(開示後発事象)の他に,財務諸表の修正として扱われる重要な後発事象(修正後発事象)も存在する。修正後発事象とは,当期の財政状態及び経営成績に影響を与える重要な後発事象をいう。 *⁶)別記事業会社等(電気業,ガス業、銀行・信託業,証券業、保険業等)を除く財務諸表提出会社(金融商品取引所に上場されている有価証券等(特定上場有価証券等を除く。)の発行会社に限る。)は,①有価証券明細表の作成を要しない(「財規」第121条)。 *⁷)連結財務諸表を作成している場合は,連結財務諸表の附属明細表として③社債明細表,④借入金等明細表,⑥資産除去債務明細表を作成するため,個別財務諸表では作成を要しない(「連結財規」第92条)。

  • 28

    継続性の原則(「企業会計原則」第一・五,注3) p26

    継続性の原則は,会計方針は毎期継続して適用しみだりに変更してはならないとする原則である。 継続性の原則は,正当な理由による変更を行う場合*¹を除き,採用した会計方針の継続適用を規定しているが*²,これは,期間比較(時系列比較)を行う投資家の期間比較可能性の確保のためである。 また,恣意的な会計方針の変更による利益操作の排除のためでもある。 *¹)正当な理由により変更を行う場合とはの要件が満たされている場合をいう(「開示変更訂正指針」6,17)。 ① 会計方針の変更は,企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものである ② 会計方針の変更は,会計事象等を財務諸表により適切に反映するために行われるものである *²)継続性の原則では,文言上,会計方針(会計処理方法)の継続性についてのみ規定しているが,実務上は,表示方法の継続性も要求される(「財規」第5条,「開示変更訂正基準」5,13)。

  • 29

    保守主義の原則(「企業会計原則」第一・六,注4) p26

    保守主義の原則は,企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には。これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならないとする原則である。保守主義の原則は,予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理(保守的な会計処理)を行うことにより,将来の不確実性に対処し企業の存続を確保しようとする思考(保守的な思考)*¹の現れである。  ここで,保守的な会計処理とは,損益計算書の観点からは,収益は出来るだけ時期的に遅く金額的にくく計上し,費用は出来るだけ時的に早く金額的に高く計上する会計処理といえる。この保守的な会計処理を行うことにより,期間利益の金額は少なく抑えられ,通常は配当等による資金の社外流出も少なく抑えることができるため,企業内に多くの資金を維持することが可能となり,結果,将来生じ得る危険に備えることが可能となると説明される。  しかし,保守的な会計処理は,利益操作の手段とされるおそれもあり,本来的には真実な報告と矛盾するともいえる。この点、今日の企業会計では真実な報告が重視されており,保守的な会計処理は募寒な報告を害きない範囲で行うものと解されている。つまり,「企業会計原則」をはじめとする会計基準等において認められていない保守的な会計処理を行うことは,過度の保守主義(過度に保守的な会計処理)として認められない。 *¹)この思考は,古くから会計実務に定着している「予想の利益は計上してはならず,予想の損失は計上しなければならない。」と表現される考え方に基づくものである。

  • 30

    単一性の原則(「企業会計原則」第一・七) p27

    単一性の原則とは,異なった形式で財務諸表が作成される場合でも,その実質的内容は,正規の簿記の原則に従って作成された会計記録に基づいたものでなければならないとする原則である。換言すれば,基礎になる会計記録が同一で(二重帳簿の禁止),財務諸表の実質的内容が同一であるならば、目的の相違により財務諸表が多様な形式をとることが容認される(実質一元・形式多元)*¹。 *¹)単一性の原則は,真実性の原則の内容に含まれているとして,実質的に必要がないとする主張もある。

  • 31

    重要性の原則(「企業会計原則」注1) p27

    重要性の原則は,重要性の高い項目についてより厳密な(正確な)取扱いを要請する一方で,重要性の支しい項目について簡便的な取扱いを容認する原則であり、会計処理面で正規の簿記の原則と,報告・表示面で明瞭性の原則と関わる。なお,重要性とは,利害関係者の意思決定を左右するほど大きい影響力を有するかを意味し,質的重要性(項目の性質)と量的重要性(項目の金額の大小)とがある。 会計処理面(正規の簿記の原則と関係)  重要性が乏しい 簡便な会計処理が容認  重要性が高い (より厳密な会計処理が要請)*¹ 報告・表示面(明瞭性の原則と関係)  重要性が乏しい 簡便な表示が容認  重要性が高い  より厳密な表示が要請 *¹)会計処理は,重要性が高くなくとも正確に行われるべきものであり,それよりも正確な会計処理はあり得ないとの立場もある。つまり,より正確な会計処理というものがあるのなら,通常行っている会計処理は相対的に不正確な会計処理ということになってしまうが,通常も正確な会計処理を行わなければならないのである。

  • 32

    会計処理面(「企業会計原則」第三・一,注1(1)~(4)) p27

    会計処理面では,重要性の乏しいものについて,本来の厳密な会計処理によらずに,簡便な会計処理によることが,正規の簿記の原則に従った処理として認められる。その適用例は次のとおりである。  ここで,貸借対照表は,貸借対照表日におけるすべての資産,負債及び純資産を記載しなければならないとする貸借対照表完全性の原則によれば,基本的に,簿外資産や簿外負債の存在は許されない。しかし,車要性の原則の適用により正規の獲記の原則に従った処理として認められる場合には,たとえ簿外資産や簿外負債が生じても貸借対照表完全性の原則には反しないとされる。 ① 消耗品,消耗工具器具備品その他の貯蔵品等のうち,重要性の乏しいものについては,その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる。  ② 前払費用,未収収益,未払費用及び前受収益のうち,重要性の乏しいものについては,経過勘定項目として処理しないことができる。 ③引当金のうち,重要性の乏しいものについては,これを計上しないことができる。 ④たな卸資産の取得原価に含められる引取費用,関税,買入事務費,移管費,保管費等の付随費用のうち,重要性のしいものについては,取得原価に算入しないことができる。

  • 33

    報告・表示面(「企業会計原則」第三・四(一)(二),注1(5),注12注13) p28

    報告・表示面では,重要性がしい項目は他の科目に含めて記載することが容認され,重要性が高い項目は独立して特別の科目で表示すること等が要される。その適用例は次のとおりである。 ① 分割返済の定めのある長期の債権又は債務のうち,期限が一年以内に到来するもので重要性の乏しいものについては,固定資産又は固定負債として表示することができる。 ② 特別損益に属する項目であっても,金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは,経常損益計算に含めることができる。 ③ 法人税等の更正決定等による追徴税額及び還付税額は,税引前当期純利益に加減して表示する。この場合,当期の負担に属する法人税額等とは区別することを原則とするが,重要性のしい場合には、当期の負担に属するものに含めて表示することができる。 ④ 賃権又は債務のうち,役員等企業の内部の者に対するものと親会社又は千会社に対するものは,特別の科目を設けて区別して表示し又は注記の方法によりその内容を明瞭に示さなければならない。*¹ ⑤ 資産は,流動資産に属する資産,固定資産に属する資産及び繰延資産に属する資産に区別しなければならない。仮払金,未決算等の勘定を貸借対照表に記載するには,その性質を示す適当な科目で表示しなければならない。 ⑥負債は,流動負債に属する負債と固定負債に属する負債とに区別しなければならない。仮受金,未決算等の勘定を貸借対照表に記載するには,その性質を示す適当な科目で表示しなければならない。 *¹)「企業会計原則」は,役員等企業内部の者や親会社又は子会社に対する債権・債務について,区分掲記又は注記を要求している。ただし,「財規」によれば、これらの者等に対する長期貸付金は区分掲記が要求される。 また,短期貸付金,長期借入金,短期借入金は5%ルール(資産項目なら資産の総額の5%,負債項目なら負債及び純資産の総額の5%を超えるものについて区分掲記を要求するルール)に従い区分掲記が要求される(「財規」第19,50,53条等)。

  • 34

    __________ p29

    第4章 財務諸表の表示

  • 監査

    監査

    メアリ · 100問 · 1年前

    監査

    監査

    100問 • 1年前
    メアリ

    監査2

    監査2

    メアリ · 100問 · 1年前

    監査2

    監査2

    100問 • 1年前
    メアリ

    監査3

    監査3

    メアリ · 15問 · 1年前

    監査3

    監査3

    15問 • 1年前
    メアリ

    管理 理論(原価計算基準)

    管理 理論(原価計算基準)

    メアリ · 70問 · 1年前

    管理 理論(原価計算基準)

    管理 理論(原価計算基準)

    70問 • 1年前
    メアリ

    問題一覧

  • 1

    __________ p1

    第1章 財務会計の機能と制度

  • 2

    企業会計の2領域 p2

    会計という言葉を敢えて定義すれば,一定組織の経済活動を貨幣的単位で測定し,その経済活動の内容及び結果を報告する手続きといえる。ここで,会計の対象となる一定組織には,家庭,学校,企業等の様々な組織が含まれるが,これらのうち企業*¹の経済活動を対象とする会計のことを「企業会計」といい,会計学の対象とされる。そして,企業会計は,会計情報の報告対象となる利用者の観点から,財務会計(外部報告会計)と管理会計(内部報告会計)に分類される。 財務会計  企業外部の株主,債権者等(利害関係者)に対し,彼らの利害を調整する会計情報を提供することを目的とする。また,企業外部の投資家に対し,投資意思決定を可能にさせる会計情報を提供することを目的とする。 管理会計  経営者を中心とする企業内部の管理者に対し,経営活動の良否を評価する会計情報を提供することを目的とする。 *¹)企業は,一般に,株式会社が前提とされる。

  • 3

    財務会計の報告対象 p3

    財務会計の報告対象は様々考えられるが,代表的な報告対象としては,投資家(投資者),株主,債権者を挙げることができる。  まず,投資家とは,証券市場で取引される株式や社債等に投資する者をいい,これらを現に保有する者だけでなく,これらを保有する可能性のある者を含む。  次に,株主とは,株式会社の出資者として株式を所有している者をいい,企業の業績を反映する配当(剰余金の分配)の多寡及び株価の高価に関して利害関係をもつ。  最後に,債権者とは,債務者に対して一定の給付をなすべきことを請求しうる者をいい。提供した資金に関する企業の返済能力及び利息支払能力に関して利害関係をもつ。

  • 4

    情報提供機能 p4

    情報提供機能とは,投資家の意思決定に有用な情報を提供する機能をいう。 (1)情報提供(投資家保護)の必要性  今日,企業の活動に必要な資金の多くは,投資家により成立する証券市場から調達されており,証券市場が円滑に機能することが,企業ひいては経済社会の運営にとって重要になっている。  ここで,証券市場において取引される株式や社債の価格は,一般に,発行企業の収益性や安全性に左右される。そのため,発行企業の収益性や安全性についての情報が投資家に提供されなければ、投資家は,株式や社債の購入・保有・売却についての判断,すなわち投資意思決定を行うことができず,その結果,証券市場は機能しなくなってしまう*¹。  したがって,証券市場を円滑に機能させるためには,発行企業の収益性や安全性についての情報を投資家に提供し,投資意思決定を可能とする必要がある*²。 (2)財務会計の公的な役割  例えば,優良会社(弛まぬ努力により社会に貢献する黒字会社)と劣悪会社(努力を怠り社会に貢献しない赤字会社)があるとする。この場合,個々の投資家の投資意思決定は,自らの経済的利益に関する合理的な判断に基づき,「優良会社には投資するが,劣悪会社には投資しない」となるはずである。そして,個々の投資家の投資意思決定の集積として,経済全体の資金配分は「優良会社には資金が提供され,劣悪会社には資金が提供されない」となるはずである。  このように,投資家は,あくまでも個々の経済的利益に関する合理的な判断に基づき投資意思決定を行うが,その結果は経済全体の資金配分に重要な影響を及ぼすことになる。したがって,投資家に情報を提供することは,単なる投資家保護に留まらず,市場メカニズムを利用した効率的な資金配分の促進にも繋がるといえる。 *¹)市場で取引される財貨の品質について,売手が買手に対して積極的に情報を提供し,情報の非対称性を解消しなければ,その市場はやがて崩壊するといわれる。この命題は、アカロフ(G.A.Akerlof )の「レモンの市場」という題名の論文で証明されている。なお、この論文においてレモンは,外見上はオレンジに似ているが,中身は酸っぱくて食べられないという意味で,欠陥品のたとえに用いられている。 *²)投資家への情報提供を「投資家保護」と呼ぶこともある。

  • 5

    利害調整機能 p5

    利害調整機能とは,企業を巡る利害関係者の利害対立を解消又は調撃する機能をいい,一般に,株主・経営者間と株主・債権者間の利害調整が議論される。 (1)株主・経営者間の利害調整  株主と経営者は,株主の資金の運用について委託・受託の関係(エージェンシー関係)にあり,受託者たる経営者には,委託者たる株主の意向に添って経営活動を行う責任(受託責任)がある。  しかし,経営者には受託責任を果たさない可能性がある(株主の利益を犠牲にする*¹可能性がある)ため,両者の利害は対立することとなる。 この利害対立を解消するために,経営者は,財務諸表を作成し,株主から運用を委託された資金をどのように運用し,どれだけの利益をあげたのかを株主に報告する(会計報告)。これにより,一方で,経営者は自らが受託責任を果たしたことを株主に伝達することができ,他方で,株主は自らの資金の運用が適切になされているか否かを判断することができる。 (2)株主・債権者間の利害調整  配当の増加は,株主にとっては望ましいが,会社財産の減少を招き債務不履行の危険性を高めるため*²,債権者にとっては望ましくない。このように,配当の金額を巡り両者の利害は対立するが,配当の金額の決定権は基本的に株主にあり,株主により債権者の利益を害するほどに多額の配当が決定されるおそれがある。 この利害対立を調整するために,会社法第 461条においては,分配可能限度額の規制による債権者保護が図られており,その計算基礎として財務諸表の作成は不可である。また,会計報告により,株主と債権者にこの規制の遵守が明らかにされる*³。 *¹)受託責任を果たさない(株主の利益を犠牲にする)行為の例としては,経営者が自らの利益を優先させる目的の交際費の過大支出等が挙げられる。 *²)株主の責任は出資額を限度とする有限責任である。 *³)株主と債権者の利害調整を「債権者保護」と呼ぶこともある。

  • 6

    制度会計と非制度会計 p6

    財務会計が適切に実施されず,投資家に情報が提供されなければ,投資家は投資意思決定を行うことができず,結果として,企業への資金提供が縮小されることになる。このような事態は,企業活動の停滞,ひいては国民経済の衰退を招きかねないため,我が国では,特定の外部報告に対して法律上の規制をおいている。このような法律で規制されている財務会計を制度会計という。  一方で,企業が,法律の枠組みを超え,自らの利害関係者あるいは社会との関係を良好にする等の目的で,自発的に外部報告を行うことは禁止されていない。むしろ近年は,企業が投資家を対象に積極的な情報開示(1R:インベスター・リレーションズ)を行うことが多くなっている。このような企業が自発的に行う外部報告を非制度会計という。

  • 7

    我が国の制度会計 p6-7

    我が国の制度会計を規制する法令には,会社法,金融商品取引法,税法(主に法人税法)の3つがあり,各法令による制度会計を,会社法会計*¹,金融商品取引法会計*²,税務会計*³という*⁴*⁵。  なお,金融商品取引法に基づく企業の財務情報の公表制度は,企業内容開示(ディスクロージャ一)制度と呼ばれる。 *¹)我が国では,財務会計の利害調整機能は,主として会社法会計により遂行されているといわれる。 *²)我が国では,財務会計の情報提供機能は,主として金融商品取引法会計により遂行されているといわれる。 *³)税務会計は,課税の公平を基本理念とする税法の規定に従い,課税所得の計算を目的とする会計である。詳しくは「租税法」にて学習されたい。 *⁴)会社法は,すべての会社を対象としており,すべての会社が会社法会計を行う。他方,金融商品取引法は,株式や社債等の有価証券を証券市場に流通させている会社(上場会社)を対象としており,上場会社のみが金融商品取引法会計を行う。 *⁵)財務会計論の理論(財務諸表論)では,主として金融商品取引法会計について学習する。

  • 8

    制度会計の会計規定 p7

    金融商品取引法においては,証券市場を円滑に機能させるため,網羅的かつ詳細な会計規定が用意されている。具体的には,「企業会計原則」をはじめとする諸々の会計基準が会計処理方法及び表示方法を,「財規」等の規則及び同ガイドラインが表示方法を規定している。また,実務対応報告や適用指針(実務指針)がより詳細な会計処理方法及び表示方法を規定している。  これに対し,会社法においても,各種利害調整の観点から独自に計算規定が用意されているが,企業会計全般に関する網羅的なものではない。具体的には,「会社法」及び「会社計算規則」等の法務省令が会計処理方法及び表示方法を規定している。  なお,金融商品取引法会計と会社法会計では,基本的には同じ会計処理や表示が行われるように,規定内容の調整が行われている。

  • 9

    GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)の必要性 p8

    企業が開示する財務諸表の社会的な重要性は高いため,虚偽情報が開示された場合には,財務諸表利用者が大きな損害を被る可能性や適切な意思決定を行えない可能性がある。  ここで,財務諸表の作成を全面的に経営者に任せた場合,経営者が自らの利益のために財務諸表の数値を操作し虚偽情報を開示する可能性がある。また,そのような意図はなくとも,財務諸表が経営者の個人的な判断に基づいて作成された場合,その情報の質が区々となり,財務諸表利用者がその内容を理解することが困難となる可能性がある。さらに,GAAPが存在しなければ,財務諸表監査を行うにあたり,財務諸表の適正性に関する判断を監査人の個人的な尺度に依らざるを得なくなり,結局,財務諸表利用者を混乱させることになりかねない。  そこで,虚偽情報を排除し,情報の等質性を確保し,さらには財務諸表監査上の判断規準とするために,社会的な会計規範としてGAAPが必要とされる。

  • 10

    我が国のGAAP p8

    我が国が戦後まもなく,アメリカを参考にGAAPとして制定したのが「企業会計原則」である。「企業会計原則」は,財務諸表の作成にあたって準拠すべき基準として,また,財務諸表監査を行うにあたっての判断基準として機能することを期待されていた。  現在,我が国のGAAPには,企業会計基準委員会(ASBJ*¹)及び企業会計審議会が公表してきた種々の会計基準・意見書が含まれる。 *¹)Accounting Standards Board of Japan の略。

  • 11

    会計基準の国際的な調和 p8

    (1)会計基準のコンバージェンス(収斂)  近年,国際的に会計基準のコンバージェンスに向けた取組みが活発になっており,我が国でも相当の努力がなされている。特に,2007年8月に公表された国際会計基準審議会(IASB*¹)との間の東京合意*²以降,その取組みが加速しており,その結果,我が国の会計基準は、高品質かつ国際的に遜色のないものであり,国際財務報告基準(IFRS*³)と同等との評価も受けている。 (2)IFRSの取込み(「連結財規」第93条,第94条)  IFRSの取込方法は各国様々であるが,多くの国・地域ではエンドースメント(個別基準を個々に検討し,一部の会計基準等を削除又は修正して採択する)が導入されている。  我が国では,2010年3月期から,一定の要件を充たす企業において,金融庁長官が「指定国際会計基準」として定めたIPBSの任意適用が開始されている。「指定国際会計基準」は,IASBが策定した一部の基準を指定しないこともできる*⁴という点では一種のエンドースメントといえるが,一部の基準を修正する手続を念頭に置いた規定ではないことから,実態的にはピュアなIFRSのアドブション(採用・導入)であるともいわれる。この点,一方で,ピュアなIFRSを適用する意図で既に任意適用している企業も存在することから,ピュアなIFRSの適用を維持する必要もあるが,他方で,我が国における会計基準に係る基本的な考え方(企業の総合的な業績指標としての当期純利益の有用性を保つこと等)と合わない場合又は実務上の困難さがある場合に、我が国に適したIFRSといった観点から,エンドースメントの仕組みを設けることも必要と考えられる。これにより,我が国においてもIFRSをより柔軟に受入可能となるとともに,削除又は修正を通じて我が国の考え方を意見 発信可能となると考えられるからである。  そこで,我が国においてもIFRSのエンドースメントが行われ,2015年6月に「修正国際基準(IFRSとASBJによる修正会計基準によって構成される会計基準)」が公表された。 (※17) (※18) (※19) *⁰)Financial Accounting Standards Board の略。(財務会計基準審議会:FASB) *⁰)Accounting Standards Codification の略(米国基準:ASC) *⁰)Japan's Modified International Standardsの略。(修正国際基準:JMIS) *¹)International Account ing Standards Boardの略。 *²)会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意のこと。 *³)International Financial Reporting Standardsの略。 *⁴)現在はすべてが指定されている。

  • 12

    __________ p11

    第2章 財務会計の基礎概念

  • 13

    会計基準を設定するアプローチ p12

    帰納的アプローチ 意義   実際に行われている会計処理方法を観察し,その中から一般的又は共通的なものを抽出することによって,会計基準を設定する方法 代表例「企業会計原則」*¹ 演繹的アプローチ 意義   会計の前提となる仮定や会計の目的を最初に規定し,これらの仮定や目的と首尾一貫するように具体的な会計処理のルールを導出する方法 代表例「概念フレームワーク」  帰納的アプローチにより設定された会計基準は,広く普及した会計実務から構成されるため,遵守され易いが,一方で,会計実務に問題があっても問題を改善するような会計基準は形成されにくい。また,基準全体の整合性や首尾一貫性が確保される保証がない等の問題がある。このような帰納的アプローチの問題を解消し,会計基準を理論的に体系付けるために,演繹的アプローチが主張される。 *¹)「企業会計原則」の前文には「企業会計原則は,企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから,一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって,必ずしも法令によって強制されないでも,すべての企業がその会計を処理するに当って従わなければならない基準である。」と記載されている。

  • 14

    会計公準 p12-13

    会計公準とは,会計の理論的な基礎構造を構成する命題であり,それなくしては会計が成立しないという意味で,会計理論や会計実務の最も基礎的な前提とされる。会計公準としてどのような命題を取り上げるべきかについては諸説あるが,最も一般的と考えられるのは,企業実体の公準,継続企業の公準,貨幣的評価の公準からなるギルマンの三公準である。 企業実体の公準  企業に投下された財産と資本についてだけ記録と計算を行うという会計の対象範囲を限定するもの (個別財務諸表・連結財務諸表) 継続企業(会計期間)の公準  企業は継続的に営業活動を営むという仮定の下で*¹,人為的に定めた一定の会計期間に区切って期間計算を行うという会計の対象を時間的に限定するもの(事業年度(1年)・四半期(3ヶ月)) 貨幣的評価(貨幣的測定)の公準  会計上の記録・計算・表示にあたっては、統一的に貨幣単位を用いるという基礎的前提(円・ドル・ユーロ) *¹)一般に公正妥当と認められる企業会計の基準は継続企業を前提としているが,そのような企業会計の基準に準拠して作成された財務諸表が企業の将来の事業活動の継続を保証するという訳ではない。そこで,企業の将来の事業活動の継続に関するリスクの存在を開示するため,経営者は,継続企業の前提に関する開示を行う (「財規」第8条の27)。詳しくは「監査論」にて学習されたい。

  • 15

    会計主体論 p13

    会計主体論とは,企業と出資者の関係をいかに解釈し,会計上の判断を出資者と企業のいずれの立場から行うべきかを考察するものである*¹。代表的な見解として,資本主理論と企業主体理論がある。 資本主理論*²   意義  企業を資本主のものと捉え,会計の主体を資本主であるとする立場。  資本主理論では,企業の資本はすべて出資者のものであり,その金額は出資者にとっての正の財産から負の財産を控除して算定される。貸借対照表上は,正の財産は資産の部に,負の財産は負債の部に記載され,その純額は,資本主に帰属する部分として純資産の部に記載される。 資本等式:資産−負債=資本   企業主体理論*³  企業を資本主とは別個独立の存在と捉え,会計の主体を企業それ自体と考える立場。  企業主体理論では,自己資本(資本・返済不要)は,他人資本(負債・返済必要)と合わせて,資産の形で運用されていると位置付けられる。貸借対照表は,資金の調達源泉(貸方)と運用状況(借方)を対照表示することにより,企業の財政状態を描写していると考えられる。 貸借対照表等式:資産=負債+資本 *¹)会計主体論(資本主理論や企業主体理論)は,企業会計上,企業をどのようにみるかという企業観を探求し,さらに,そこから会計処理等を考察するものである。したがって,会計主体論は,企業という実体が資本主とは別個に存在した計算構造であること,つまり,企業実体の公準を前提とした議論であると考えられる。 *²)現行の企業会計では株主に帰属する純利益が計算されている。また,資本助成目的の国庫補助金は払込資本とされていない。さらに,株主に帰属する金額だけが株主資本とされている。そのため,現行の企業会計では,会計上の判断は株主の観点から行われている(資本主理論)といわれる。 *³)伝統的な会計理論は,企業主体理論の立場に立っていたといわれる。

  • 16

    貸借対照表観 p14

    貸借対照表観とは,貸借対照表の本質の捉え方に関する議論であり,時代とともに変遷している。  17~20世紀初頭においては,企業は小規模であり,倒産が多かったため,企業会計には,企業の債務弁済能力を開示することにより,債権者を保護することが期待されていた。そのため,貸借対照表は,企業の財産価値.(解散価値)を表示するものと位置付けられていた(静態論)。  20世紀以降においては,証券市場の発達により,一方で企業が大規模化して倒産が減り,他方で投資家が出現したため,企業会計には,企業の収益力を開示することにより,投資家を保護することが期待されるようになった。そのため,貸借対照表は,期間損益計算との関わりで意義を有することになり,収支と損益の期間帰属のズレを収容する残高表(ないし収入・支出と収益・費用の間の未解決項目を収容する表*¹)と位置付けられるようになった(動態論)。 静態論的会計 会計の目的  債務弁済能力の開示による債権者保護 →資産・負債の実地調査と時価評価により企業の財産価値を明らかにする。  貸借対照表の本質  企業の財産価値(解散価値)を表示するためのもの 資産の概念  換金可能なもの(繰延資産は計上できない)  資産の分類と評価  [分類]流動・固定分類  [評価]売却時価*² 制度会計との関連  会社法会計は静態論の特色を残すといわれる。 動態論的会計 会計の目的  収益力の開示による投資家保護 →適正な期間損益計算により企業の業績を明らかにする。 貸借対照表の本質  企業の財産価値(解散価値)を表示するためのもの 資産の概念  適正な期間損益計算で必要とされるもの(繰延資産は計上できる) 資産の分類と評価 [分類]貨幣性•費用性分類 [評価]貨幣性資産:回収可能価額     費用性資産:取得原価*³ 制度会計との関連  金融商品取引法会計は動態論に基づくといわれる。 *¹)より厳密には,貸借対照表は「収入・支出と収益・費用の間の未解決項目と支払手段(貨幣)及び資本を収容する表」と理解される。 *²)静態論的会計では,企業の債務済能力を示すべく,資産は売却時価により評価される。また,企業の短期支払能力を明示するため,資産は,流動資産と固定資産に分類されることになると考えられる。 *³)動態論的会計では,損益計算との関わりが重視されるため,資産は貨幣性資産と費用性資産に分類され,貨幣性資産は回収可能価額で,費用性資産は取得原価で評価されることになる。ただし,金融商品取引法会計において,資産は,貨幣性・費用性分類ではなく,流動・固定分類により表示されている。

  • 17

    収益費用アプローチと資産負債アプローチ p15

    会計における利益の見方(利益観)は,収益及び費用(フロー)を中心にする収益費用アプローチと資産及び負債(ストック)を中心にする資産負債アプローチに大別される。  収益費用アプローチとは,一会計期間における企業の活動成果である収益と,それを得るための犠牲分たる費用の差額を期間利益(純利益*¹)とする考え方である。収益費用アプローチにおいては,収益及び費用の概念,さらにはその認識基準や測定基準が会計の中心的課題となるため,資産及び負債について貸借対照表日現在の価値を直接測定することがない。したがって,貸借対照表上の資産及び負債は,貸借対照表日現在の経済的実態を必ずしも表示しない。  他方,資産負債アプローチとは,資産と負債の差額である純資産の当増減額から資本等取引による当期増減額を控除した残額をもって期間利益(包括利益*²)とする考え方である。資産負債アプローチにおいては,資産及び負債の概念,さらにはその認識基準や測定基準が会計の中心的課題となる。 *¹)純利益については,分配可能利益を重視する立場と業績表示利益を重視する立場がある。 *²)包括利益を期間利益とした場合,例えば,その他有価証券評価差額金は,期間利益に含められた上で純資産に加減されることになる。

  • 18

    我が国の制度会計のアプローチ p16

    収益費用アプローチと資産負債アプローチは,いわば利益計算の2つのモデルであり,どちらかー 方によってのみ制度会計が形作られなければならないというわけではない*¹。「企業会計原則」等の我が国の従来の会計基準は収益費用アプローチに基づいていたが,近年,国際的には資産負債アプロニチが主流となったことから,我が国で近年公表されている会計基準も,資産負債アプローチに基づく会計処理を大幅に取り入れている。 *¹)概念フレームワーク」は,どちらか一方のアプローチに立っているわけではないといわれる。

  • 19

    損益計算書と貸借対照表の連繋 p16

    損益計算書と貸借対照表の基本的な関係として,クリーン・サープラス関係が指摘される。クリーン・サープラス関係とは,損益計算書で計算される期間損益と貸借対照表の純資産の一会計期間における増減額が一致するという関係*¹をいい,この関係が成立する損益計算書と貸借対照表の関係は,損益計算費と貸借対照表の連繋と呼ばれる場合がある。  なお,収益費用アプローチ及び資産負債アプローチのいずれにおいても,基本的には損益計算書と貸借対照表は連繋していると考えられる。 *¹)資本取引による株主資本の払込や払出がないことが前提。

  • 20

    我が国における損益計算書と貸借対照表の連繋 p17

    我が国の制度上,損益計算書で計算される期間損益(純利益)と貸借対照表の純資産の一会計期間における増減額は、その他有価証券評価差額金等の項目の存在により不一致となっており,クリーン・サープラス関係が成立していない。したがって,我が国の制度上,損益計算書と貸借対照表は非連繋であると指摘されることがある*¹。  ただし,「包括利益基準」*²により,我が国においても包括利益の表示が導入された。 「包括利益基準」における損益及び包括利益計算書を前提とすると,次のようになると考えられる。 *¹)クリーン・サープラス関係(ないし損益計算書と貸借対照表の連)を,損益計算書で表示される期間利益と貸借対照表の株主資本の一会計期間における増減額が一致する関係と理解し,我が国の制度上,クリーン・サープラス関係は成立している(ないし損益計算書と貸借対照表は連繋している)と主張する立場もある。 *²)平成22年6月30日公表(平成23年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から基本的に適用),最終改正平成24年6月29日(平成24年6月29日以後適用)。なお,当面の間,個別財務諸表には適用しないこととされている。

  • 21

    金融投資と事業投資 p18

    企業の投資活動は、投資の性質(企業が投資活動に何を期待しているか)により、時価の変動によって利益を獲得することを目的とした金融投資と,事業の遂行を通じて成果を得ることを目的とした事業投資に大別される。他方,企業の投資活動の対象となる資産は,その外形的な性質に従い,金銭債権・有価証券等の金融資産と,原材料・商品・建物・機械等の非金融資産に大別される。なお,非金融資産のうち事業投資目的のものは事業資産と呼ばれる*¹。  ここで,損益計算は,投資の成果計算であるから,投資の性質により異なる。また,資産評価は,損益計算と表裏の関係にあるため,これも投資の性質により異なる。 表参照 *¹)伝統的には,資産は「貨幣性資産」と「費用性資産」に分類するのが一般的であったが,近年では,「金融資産」と「非金融資産(または事業資産)」に分類するのが主流となってきたようである。受験上は,「貨幣性資産=金融資産」「費用性資産=非金融資産(または事業資産)」と考えておけばよい。

  • 22

    __________ p19

    第3章 「企業会計原則」の一般原則

  • 23

    総論 p20

    「企業会計原則」は「第一 一般原則」「第二  損益計算書原則」「第三 貸借対照表原則」という3つの部分から構成されている。これらのうち「第一 一般原則」は,企業会計の全般に共通する一般的な規範をとりあげたものである。  「企業会計原則」は「第一一般原則」において,真実性の原則,正規の薄記の原則,資本取引損益取引区分の原則,明瞭性の原則,継続性の原則,保守主義の原則,単一性の原則という7つの一般原則を定めている。また,一般原則とはしていないが,重要性の原則を定めている(「企業会計原則」注1)。

  • 24

    真実性の原則(「企業会計原則」第一・一) p21

    真実性の原則は,企業の財政状態及び経営成績に関して真実な報告を提供しなければならないとする原則であり,企業会計の最高規範である。真実性の原則における真実な報告は,会計諸基準等を遵守することによって確保される。  真実性の原則における真実は,以下のような理由から,唯一絶対的・普遍的な真実ではなく,相対的な真実であるといわれる。 会計の目的適合性 「企業会計原則」は,一般に公正妥当と認められた会計処理等を帰納要約したものであり,その時代における社会規約として存在する。そして,当該規約は,その時代における会計の目的を達成することを前提として成立している。 したがって,時代の変化により会計の目的が変化すれば,真実の内容も変化する。 期間損益計算の暫定性  期間損益計算においては,貸倒引当金の設定等をはじめとする主観的な見積りを排除することはできない。そのため,真実の内容は,見積りにより異なるという意味で相対的なものとなる。また,見積りは後日修正されることもある。その意味でも真実の内容は相対的なものとなる。 代替的会計処理方法の容認  「企業会計原則」は,様々な企業がこれに従って業績を適正に開示することができるよう*¹、同一の会計事実に対して代替的な会計処理方法を容認している(減価償却(定額法と定率法))*²。 同一の会計事実であっても、採用する会計処理方法が異なれば、会計数値は異なるため、真実の内容は相対的なものとなる。 *¹)企業会計をする規則として「企業会計原則」が社会に承認されるためには,様々な業種業態の企業が「企業会計原則」に従って会計処理することにより,業績を適正に開示することができなければならない。 *²)経営者には,認められた会計処理方法の中から,自社の業種業態に最も適合する会計処理方法を選択することが求められる(経理自由の原則)。

  • 25

    正規の簿記の原則(「企業会計原則」第一・二) p21-22

    正規の簿記の原則は,すべての取引につき正規の簿記の原則に従って正確な会計帳簿を作成しなければならないとする原則である。  正規の簿記の原則は,基本的に,帳簿記録を行う際の要件(正規の簿記の3要件)を指示していると解される。なお,一般に,複式簿記*¹による記録は,この3要件を充足するといわれる。  (正規の薄記の3要件) 1 網羅性:会計帳簿に記録されるべき取引が,漏れなく記録されていること。 2 検証可能性:すべての会計記録が何らかの会計証憑によって裏付けられていること。 3 秩序性:会計記録が一定のきまりに従って,組織的に連絡していること。 *⁰)正規の毎記の原則は,(文言上は、会計処理について触れていないが)正しい会計処理についても要求していると解される場合がある(Ⅲ.重要性の原則参照)。 *⁰)財務諸表(貸借対照表)の作成方法には棚卸法(期末に帳簿を離れてすべての資産・負債を実地調査し、財産目録を作り,これに基づいて貸借対照表を作成する方法)と誘導法(帳簿記録を基礎にして,貸借対照表を作成する方法)とがあるが,正規の簿記の原則は,(帳簿記録から誘導して財務諸表を作成することについても要求していると解される場合がある。 *¹)複式簿記では貸借を分けて記録するのに対し,単式簿記では貸借を分けて記録しない。単式簿記の記録システムとしては,例えば,多桁式の現金出納帳のみですべての取引を記録するシステムが考えられる。  単式簿記による記録は,正規の簿記の3要件を充足すれば「正規の簿記」として認められるが,単式簿記により「正規の簿記」の3要件を充足することができるのは,非常に小規模な企業に限られるである。

  • 26

    資本取引類益取引区分の原則(「企業会計原則」第一・三,注2) p22-23

    資本取引損益取引区分の原則(剰余金区分の原則)は,資本取引と損益取引とを明瞭に区別し,特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならないとする原則である。  企業会計においては,企業活動の成果である期間損益を適正に計算することを第一義的に考える必要があるが,株主資本*¹を増減させる取引のうち,利益の獲得を目的とする損益取引のみが企業活動の成果となる取引であり。株主資本を直接的に変化させることを目的とする資本取引*²は企業活動の成果となる取引ではない。したがって,両取引を区別することにより,期間損益計算の対象を確化することができるのである。  また,資本取引損益取引区分の原則においては,元本たる資本のうち資本金以外の部分である資本剰余金と企業内に留保されている利益である利益剰余金の混同禁止も要請され,株主資本を企業の元本である払込資本と元本を運用して増加させた果実である留保利益に区別することが要請されている。 これは,会計理論上は,配当の金額を巡る株主と債権者の利害対立は,払込資本を配当不能,留保利益を配当可能として,両者を区別することにより調整が図られると考えられるためである*³。 *¹)「概念フレームワーク」において,株主資本は,純資産のうち報告主体の所有者である株主(連結財務諸表の場合には親会社株主)に帰属する部分と定義されている。 *²)一般に,資本取引は,報告主体の所有者である株主との直接的な取引であることが前提とされる。 *³)現行の会社法上は,払込資本の一部である「その他資本剰余金」を原資とした配当が認められているため,払込資本と留保利益の区別による利害調整は実効性が乏しいといわれることがある。これを受け,近年は,元本(払込資本)と果実(留保利益)を区別した情報は,投資家が過年度の企業業績の良否や企業の投資効率等を判断する際に有用であると,情報提供の観点から,両者の区別の必要性が説明されることもある。

  • 27

    明瞭性の原則(「企業会計原則」第一・四) p23-25

    明瞭性の原則は,財務諸表によって利害関係者に対し必要な会計事塞を明瞭表示し,企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならないとする原則である。つまり,明瞭性の原則は,財務諸表の利用者が企業の財政状態及び経営成績の判断を誤ることのないように報告することを要請する原則であり,企業会計の報告機能に関するものである。具体的には,次のようなものがある*¹。 1)損益計算書,貸借対照表の形式や表示方法 ・区分損益計算書の作成(「企業会計原則」第二・二,「財規」第70条) ・貸借対照表の区分表示(「企業会計原則」第三・二,「財規」第14条) ・総額主義による表示(「企業会計原則」第二・一B,「企業会計原則」第三・一B) 2)「企業会計原則」上の重要事項の注記(「企業会計原則」第三・一C,四(三)A) ・受取手形の割引高又は裏書譲渡高 ・保証債務等の偶発債務 ・債務の担保に供している資産 ・発行済株式1株当たり当期純利益及び同1株当たり純資産額 ・発行済株式の数を普通株,優先株等の種類別に注記 (3)重要な会計方針の開示(「企業会計原則」注1-2,「開示変更正基準」4,「財規」第8条の2  会計方針とは,財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続*²)をいい。重要な会計方針は注記しなければならない。その例としては次のものがある。 ・有価証券の評価基準及び評価方法 ・棚卸資産の評価基準及び評価方法 ・固定資産の減価償却の方法 ・繰延資産の処理方法 ・外貨建の資産及び負債の本邦通貨への換算基準 ・引当金の計上基準 ・収益及び費用の計上基準 ・ヘッジ会計の方法 ・キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲 ・その他財務諸表作成のための基本となる重要な事項  重要な会計方針の注記目的は,同一の会計事実に対し代替的な会計方針が認められている場合にはいずれの会計方針を採用するかにより財務諸表の数値は異なることから*³,財務諸表作成の前提又は基礎を注記することにより,財務諸表利用者の正しい理解を促進することにある*⁴。  なお,様々な注記事項がある場合には,まず重要な会計方針の注記を記載し(継続企業の前提に関する注記が記載される場合を除く),その後に他の注記事項を記載する。 (4) 重要な後発事象(「企業会計原則」注1-3,「財規」第8条の4,「同ガイドライン」8の4)  後発事象とは,貸借対照表日後に発生した財務諸表提出会社の翌事業年度以降の財政状態。経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象をいい、重要な後発事象は注記しなければならない(開示後発事象)*⁵。その例としては次のものがある。 ・火災,出水等による重大な損害の発生 ・多額の増資又は減資及び多額の社債の発行又は繰上償還 ・会社の合併,重要な営業の譲渡又は譲受 ・重要な係争事件の発生又は解決 ・主要な取引先の倒産 ・株式併合及び株式分割  利害関係者は財務諸表を企業の将来の業績を予測するために用いる。後発事象は,財務諸表の対象とする期間後に発生した事象ではあるが,企業の将来の業績子測に役立つ情報であるため,重要なものは補足情報として注記が必要とされる。 (5)附属明細表の作成(「財規」第121条)  附属明細表は,主要項目について期末残高の内訳明細又は期中の増減額等を明確にする目的で作成されるものであり,個別財務諸表を前提とすると,①有価証券明細表*⁶,②有形固定資産等細 表,③社債盟細表,④借入金等明細表, ⑤引当金細表,⑥資産除去債務細表がある*⁷。 *¹)利害関係者が会社の財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合には,その事項を注記する(「財規」第8条の5)。 *²)従来,会計方針は表示方法を包括する概念と考えられてきたが,「開示変更正基準」では,コンバージェンスの観点から,会計方針と表示方法が別々に定義された。 *³)会計基準等の定めが明らかであり,当該会計基準等において代替的な会計方針が認められていない場合には,会計方針に関する注記を省略することができる(「開示変更訂正基準」4-6)。 *⁴)会計処理の対象となる会計事象等に関する会計基準等の定めが明らかでない場合(特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合)にも,採用した会計方針を開示する。 *⁵)実務上は,注記によって開示される重要な後発事象(開示後発事象)の他に,財務諸表の修正として扱われる重要な後発事象(修正後発事象)も存在する。修正後発事象とは,当期の財政状態及び経営成績に影響を与える重要な後発事象をいう。 *⁶)別記事業会社等(電気業,ガス業、銀行・信託業,証券業、保険業等)を除く財務諸表提出会社(金融商品取引所に上場されている有価証券等(特定上場有価証券等を除く。)の発行会社に限る。)は,①有価証券明細表の作成を要しない(「財規」第121条)。 *⁷)連結財務諸表を作成している場合は,連結財務諸表の附属明細表として③社債明細表,④借入金等明細表,⑥資産除去債務明細表を作成するため,個別財務諸表では作成を要しない(「連結財規」第92条)。

  • 28

    継続性の原則(「企業会計原則」第一・五,注3) p26

    継続性の原則は,会計方針は毎期継続して適用しみだりに変更してはならないとする原則である。 継続性の原則は,正当な理由による変更を行う場合*¹を除き,採用した会計方針の継続適用を規定しているが*²,これは,期間比較(時系列比較)を行う投資家の期間比較可能性の確保のためである。 また,恣意的な会計方針の変更による利益操作の排除のためでもある。 *¹)正当な理由により変更を行う場合とはの要件が満たされている場合をいう(「開示変更訂正指針」6,17)。 ① 会計方針の変更は,企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものである ② 会計方針の変更は,会計事象等を財務諸表により適切に反映するために行われるものである *²)継続性の原則では,文言上,会計方針(会計処理方法)の継続性についてのみ規定しているが,実務上は,表示方法の継続性も要求される(「財規」第5条,「開示変更訂正基準」5,13)。

  • 29

    保守主義の原則(「企業会計原則」第一・六,注4) p26

    保守主義の原則は,企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には。これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならないとする原則である。保守主義の原則は,予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理(保守的な会計処理)を行うことにより,将来の不確実性に対処し企業の存続を確保しようとする思考(保守的な思考)*¹の現れである。  ここで,保守的な会計処理とは,損益計算書の観点からは,収益は出来るだけ時期的に遅く金額的にくく計上し,費用は出来るだけ時的に早く金額的に高く計上する会計処理といえる。この保守的な会計処理を行うことにより,期間利益の金額は少なく抑えられ,通常は配当等による資金の社外流出も少なく抑えることができるため,企業内に多くの資金を維持することが可能となり,結果,将来生じ得る危険に備えることが可能となると説明される。  しかし,保守的な会計処理は,利益操作の手段とされるおそれもあり,本来的には真実な報告と矛盾するともいえる。この点、今日の企業会計では真実な報告が重視されており,保守的な会計処理は募寒な報告を害きない範囲で行うものと解されている。つまり,「企業会計原則」をはじめとする会計基準等において認められていない保守的な会計処理を行うことは,過度の保守主義(過度に保守的な会計処理)として認められない。 *¹)この思考は,古くから会計実務に定着している「予想の利益は計上してはならず,予想の損失は計上しなければならない。」と表現される考え方に基づくものである。

  • 30

    単一性の原則(「企業会計原則」第一・七) p27

    単一性の原則とは,異なった形式で財務諸表が作成される場合でも,その実質的内容は,正規の簿記の原則に従って作成された会計記録に基づいたものでなければならないとする原則である。換言すれば,基礎になる会計記録が同一で(二重帳簿の禁止),財務諸表の実質的内容が同一であるならば、目的の相違により財務諸表が多様な形式をとることが容認される(実質一元・形式多元)*¹。 *¹)単一性の原則は,真実性の原則の内容に含まれているとして,実質的に必要がないとする主張もある。

  • 31

    重要性の原則(「企業会計原則」注1) p27

    重要性の原則は,重要性の高い項目についてより厳密な(正確な)取扱いを要請する一方で,重要性の支しい項目について簡便的な取扱いを容認する原則であり、会計処理面で正規の簿記の原則と,報告・表示面で明瞭性の原則と関わる。なお,重要性とは,利害関係者の意思決定を左右するほど大きい影響力を有するかを意味し,質的重要性(項目の性質)と量的重要性(項目の金額の大小)とがある。 会計処理面(正規の簿記の原則と関係)  重要性が乏しい 簡便な会計処理が容認  重要性が高い (より厳密な会計処理が要請)*¹ 報告・表示面(明瞭性の原則と関係)  重要性が乏しい 簡便な表示が容認  重要性が高い  より厳密な表示が要請 *¹)会計処理は,重要性が高くなくとも正確に行われるべきものであり,それよりも正確な会計処理はあり得ないとの立場もある。つまり,より正確な会計処理というものがあるのなら,通常行っている会計処理は相対的に不正確な会計処理ということになってしまうが,通常も正確な会計処理を行わなければならないのである。

  • 32

    会計処理面(「企業会計原則」第三・一,注1(1)~(4)) p27

    会計処理面では,重要性の乏しいものについて,本来の厳密な会計処理によらずに,簡便な会計処理によることが,正規の簿記の原則に従った処理として認められる。その適用例は次のとおりである。  ここで,貸借対照表は,貸借対照表日におけるすべての資産,負債及び純資産を記載しなければならないとする貸借対照表完全性の原則によれば,基本的に,簿外資産や簿外負債の存在は許されない。しかし,車要性の原則の適用により正規の獲記の原則に従った処理として認められる場合には,たとえ簿外資産や簿外負債が生じても貸借対照表完全性の原則には反しないとされる。 ① 消耗品,消耗工具器具備品その他の貯蔵品等のうち,重要性の乏しいものについては,その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる。  ② 前払費用,未収収益,未払費用及び前受収益のうち,重要性の乏しいものについては,経過勘定項目として処理しないことができる。 ③引当金のうち,重要性の乏しいものについては,これを計上しないことができる。 ④たな卸資産の取得原価に含められる引取費用,関税,買入事務費,移管費,保管費等の付随費用のうち,重要性のしいものについては,取得原価に算入しないことができる。

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    報告・表示面(「企業会計原則」第三・四(一)(二),注1(5),注12注13) p28

    報告・表示面では,重要性がしい項目は他の科目に含めて記載することが容認され,重要性が高い項目は独立して特別の科目で表示すること等が要される。その適用例は次のとおりである。 ① 分割返済の定めのある長期の債権又は債務のうち,期限が一年以内に到来するもので重要性の乏しいものについては,固定資産又は固定負債として表示することができる。 ② 特別損益に属する項目であっても,金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは,経常損益計算に含めることができる。 ③ 法人税等の更正決定等による追徴税額及び還付税額は,税引前当期純利益に加減して表示する。この場合,当期の負担に属する法人税額等とは区別することを原則とするが,重要性のしい場合には、当期の負担に属するものに含めて表示することができる。 ④ 賃権又は債務のうち,役員等企業の内部の者に対するものと親会社又は千会社に対するものは,特別の科目を設けて区別して表示し又は注記の方法によりその内容を明瞭に示さなければならない。*¹ ⑤ 資産は,流動資産に属する資産,固定資産に属する資産及び繰延資産に属する資産に区別しなければならない。仮払金,未決算等の勘定を貸借対照表に記載するには,その性質を示す適当な科目で表示しなければならない。 ⑥負債は,流動負債に属する負債と固定負債に属する負債とに区別しなければならない。仮受金,未決算等の勘定を貸借対照表に記載するには,その性質を示す適当な科目で表示しなければならない。 *¹)「企業会計原則」は,役員等企業内部の者や親会社又は子会社に対する債権・債務について,区分掲記又は注記を要求している。ただし,「財規」によれば、これらの者等に対する長期貸付金は区分掲記が要求される。 また,短期貸付金,長期借入金,短期借入金は5%ルール(資産項目なら資産の総額の5%,負債項目なら負債及び純資産の総額の5%を超えるものについて区分掲記を要求するルール)に従い区分掲記が要求される(「財規」第19,50,53条等)。

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    __________ p29

    第4章 財務諸表の表示