小野篁といふ人おはし「けり」。

内裏に札を立て「たり」けるに、

内裏に札を立てたり「ける」に、

と書き「たり」けり。

と書きたり「けり」。

と仰せ「られ」たりければ、

と仰せられ「たり」ければ、

と仰せられたり「けれ」ば、

「読みは読み候ひ『な』ん」

「読みは読み候ひな『ん』」

怖れ「に」て候へば、

え申し候は「じ」。

と奏し「けれ」ば、

たびたび仰せ「られ」ければ、

たびたび仰せられ「けれ」ば、

「さがなくてよから『ん』」

君を呪い参らせて候ふ「なり」。

と申し「けれ」ば、

おのれ放ちては、誰か書か「ん」

と仰せ「られ」ければ、

と仰せられ「けれ」ば、

「さればこそ、申し候は『じ』とは申して候ひつれ。」

「さればこそ、申し候はじとは申して候ひ『つれ』。」

さて、何も書き「たら」んものは、

さて、何も書きたら「ん」ものは、

読み「て」んや。

読みて「ん」や。

と仰せ「られ」ければ、

と仰せられ「けれ」ば、

「何『に』ても、読み候ひなん。」

「何にても、読み候ひ『な』ん。」

「何にても、読み候ひな『ん』。」

と申し「けれ」ば、

片仮名の「ね」文字十二書か『せ』給ひて、

と仰せ「られ」ければ、

と仰せられ「けれ」ば、

と読み「たり」ければ、

と読みたり「けれ」ば、

帝ほほ笑ま『せ』給ひて、

事なくてやみ「に」けり。

事なくてやみに「けり」。