問題一覧
1
めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに
雲がくれにし 夜半の月かな
2
誰をかも 知る人にせむ 高砂の
松も昔の 友ならなくに
3
花さそふ 嵐の庭の 雪ならで
ふりゆくものは わが身なりけり
4
人もをし 人も恨めし あぢきなく
世を思ふゆゑに 物思ふ身は
5
いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ 九重に にほひぬるかな
6
みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえ
昼は消えつつ 物をこそ思へ
7
心にも あらでうき世に ながらへば
恋しかるべき 夜半の月かな
8
見せばやな 雄島のあまの 袖だにも
ぬれにぞぬれし 色はかはらず
9
高砂の 尾の上の桜 咲きにけり
外山のかすみ 立たずもあらなむ
10
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに
あらはれわたる 瀬々の網代木
11
さびしさに 宿を立ちいでて ながむれば
いづこもおなじ 秋の夕暮れ
12
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ
13
やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて
かたぶくまでの 月を見しかな
14
村雨の 霧もまだひぬ 真木の葉に
霧立ちのぼる 秋の夕暮れ
15
白露に 風の吹きしく 秋の野は
つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
16
今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを
人づてならで 言ふよしもがな
17
あひ見ての 後の心に くらぶれば
昔は物を 思はざりけり
18
忘らるる 身をば思はず ちかひてし
人の命の 惜しくもあるかな
19
恨みわび ほさぬ袖だに あるものを
恋にくちなむ 名こそ惜しけれ
20
心あてに 折らば折らむ 初霜の
おきまどはせる 白菊の花
21
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら
なほ恨めしき 朝ぼらけかな
22
由良のとを わたる舟人 かぢをたえ
ゆくへも知らぬ 恋の道かな
23
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
くだけて物を 思ふころかな
24
長からむ 心も知らず 黒髪の
乱れてけさは 物をこそ思へ
25
ひさかたの 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらむ
26
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり
人知れずこそ 思ひそめしか
27
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば
忍ぶることの 弱りもぞする
28
今来むと いひしばかりに 長月の
有明の月を 待ちいでつるかな
29
人はいさ 心も知らず ふるさとは
花ぞ昔の 香ににほひける
30
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くるまは
いかに久しき ものとかは知る
31
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば
ただ有明の 月ぞ残れる
32
淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に
幾夜寝ざめぬ 須磨の関守
33
夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも
よに逢坂の 関はゆるさじ
34
ながらへば またこのごろや しのばれむ
憂しと見し世ぞ 今は恋しき
35
瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
われても末に あはむとぞ思ふ
36
あふことの 絶えてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
37
忘れじの 行く末までは かたければ
今日をかぎりの 命ともがな
38
吹くからに 秋の草木の しをるれば
むべ山風を 嵐といふらむ
39
世の中は 常にもがもな 渚こぐ
あまの小舟の 綱手かなしも
40
音にきく 高師の浜の あだ波は
かけじや袖の ぬれもこそすれ
41
山川に 風のかけたる しがらみは
流れもあへぬ もみぢなりけり
42
わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の
人こそ知らね かわくまもなし
43
しのぶれど 色にいでにけり わが恋は
物や思ふと 人の問ふまで
44
もろともに あはれと思へ 山桜
花よりほかに 知る人もなし
45
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
46
わたの原 漕ぎいでて見れば ひさかたの
雲ゐにまがふ 沖つ白波
47
みかの原 わきて流るる いづみ川
いつ見きとてか 恋しかるらむ
48
有明の つれなく見えし 別れより
暁ばかり うきものはなし
49
小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば
今ひとたびの みゆき待たなむ
50
ちぎりきな かたみに袖を しぼりつつ
末の松山 波越さじとは
51
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは
みそぎぞ夏の しるしなりける
52
このたびは ぬさもとりあへず 手向山
もみぢの錦 神のまにまに
53
朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに
吉野の里に 降れる白雪
54
有馬山 猪名の笹原 風吹けば
いでそよ人を 忘れやはする
55
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
56
君がため 惜しからざりし 命さへ
長くもがなと 思ひけるかな
57
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
衣かたしき ひとりかも寝む
58
かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな もゆる思ひを
59
み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて
ふるさと寒く 衣うつなり
60
嘆けとて 月やは物を 思はする
かこち顔なる わが涙かな
61
月見れば ちぢに物こそ かなしけれ
わが身ひとつの 秋にはあらねど
62
難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ
身をつくしてや 恋ひわたるべき
63
嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は
竜田の川の 錦なりけり
64
ももしきや 古き軒端の しのぶにも
なほあまりある 昔なりけり
65
来ぬ人を 松帆の浦の ゆうなぎに
焼くや藻塩の 身もこがれつつ
66
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に
今ひとたびの あふこともがな
67
あはれとも いふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな
68
名にしおはば 逢阪山の さねかづら
人に知られで 来るよしもがな
69
思ひわび さても命は あるものを
憂きにたへぬは 涙なりけり
70
浅芽生(あさぢふ)の 小野の篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の恋しき
71
ちぎりおきし させもが露を 命にて
あはれ今年の 秋もいぬめり
72
憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ
はげしかれとは 祈らぬものを
73
夜もすがら 物思ふころは 明けやらで
閨のひまさへ つれなかりけり
74
山里は 冬ぞさびしさ まさりける
人めも草も かれぬと思へば
75
おほけなく うき世の民に おほふかな
わが立つ袖に 墨染の袖
76
秋風に たなびく雲よ 絶え間より
もれいづる月の 影のさやけさ
77
夕されば 門田の稲葉 おとづれて
芦のまろやに 秋風ぞ吹く
78
八重むぐら しげれる宿の さびしきに
人こそ見えね 秋は来にけり