問題一覧
1
個人とは?
個人とは、固有性、自立性、統一性、同一性を維持する存在。社会は個人に対して、一貫性と自己表現を求めつつも、状況への柔軟な適応と変化を促す矛盾する要求を課す。個人性は、ハビトゥス(感覚や思考の型)とナラティヴ(物語)を通じて社会的文脈内で形成される。
2
社会的事実とは?
社会的事実とは、社会内で共通して認められている行動や考え方のパターンで、個人を超えた社会全体に存在する規則や価値観、習慣を指す。これらは個人の意志や選択を越えて、社会から個人へと強い影響を与え、人々の行動や考え方を形成する。社会的事実は、文化、慣習、法律などを通じて、社会の秩序を維持し、一致した行動を促す役割がある。
3
社会化された個人主義とは?
「社会化された個人主義」とは、社会の中で育つ過程で社会のルールや価値観が個人に影響を与え、個人の自由や自己実現を形成する考え方のこと。これは、個人が社会と密接に関わりながら成長することを意味し、個人の自由や自己実現が社会の規範によって制限される可能性も含んでいる。
4
一般化された他者とは?
「一般化された他者」とは、社会や集団全体の共通の見方や態度を、個人が自分の中に取り入れることである。 この考えは、人が他人とのやり取りを通じて、社会のルールや価値観を学び、自分自身をどう見るかを形成する方法を説明している。「プレイ」や「ゲーム」をする過程で、人は社会の一般的な視点を理解し、それによって自分の行動を社会に合わせて調節する方法を学ぶ。この過程を経て、人は社会の一員としての自分の認識を築き上げ、さまざまな社会的な場面で一貫した自分を保つことができる。
5
「プレイ」と「ゲーム」とは?
「プレイ」と「ゲーム」は人が社会的な自分を育てる方法のことである。 「プレイ」の段階では、子供が他の人の役割をまねて、その役割から期待される行動をすることで、他人の見方を学び、自分の行動に対する反応を想像する力を養う。ここで、子供は一対一の関係を通じて自分自身を探求する。 「ゲーム」の段階では、子供がもっと複雑な社会的な関係の中で多くの役割を理解し、それらの役割間の関係に基づいて行動する。この時、子供はグループや社会全体の期待を吸収し、「一般化された他者」の見方を取り入れる。
6
社会化の形式
「社会化の形式」とは、人々が社会内でどのように互いに関わり合うかという特定のパターンや構造を指す。これには、役割分担、社会規範、期待などが含まれ、社会の秩序を保ち、人々が社会的に機能するために必要である。ジンメルによれば、これらの形式は個人の行動を形づくり、社会全体の統一と秩序を維持する役割を果たす。
7
社交圏の分離とは?
「社交圏の分離」とは、人が家族、仕事、友達、趣味など複数の異なる社会集団に属しながらも、完全にはどの集団にも深く没入せず、それぞれで異なる役割や自己を示す状態を指す。これにより、各集団は独立しており、個人はそれぞれの集団内で限られた関係を持つ。このような分離によって、個人はどの社交圏にも全てを委ねることなく、自立した個性を保つことができ、異なる集団からの影響をバランスよく取り入れることが可能になる。このプロセスは、個人が自立と個性を発展させることを助けると同時に、社会的な葛藤を経験しつつも自己の一貫性を維持しようとする努力を必要とする。
8
ハビトゥスとは?
「ハビトゥス」とは、人々が社会生活を通じて身につける、物の見方や感じ方、考え方、行動の仕方の全体的なパターンのこと。 これは過去の経験から形成され、人の知覚や思考、行動を特定の方向に導く傾向を持つシステムとして機能する。 ハビトゥスは社会的に作られ、文化的な行動技術を含み、個人と集団の両方の特性を持つ。この概念は、特定の社会的環境やグループにおける共通の振る舞いや信念を映し出し、人々が自然に感じる反応や行動の背後にある無意識のガイドラインであるりブルデューによると、ハビトゥスは「身体化された歴史」であり、社会的状況と個人の生活経験が積み重なることで形成され、人々の行動や思考の枠組みを作り出す。
9
身体技法とは?
「身体技法」とは、特定の社会や文化、時代に特有の身体の使い方や動きのパターンを指す。これには歩き方、立ち振る舞い、身振り、泳ぎ方、物を持つやり方など、日常生活でのさまざまな身体動作が含まれる。 これらの技法は社会的に構築され、世代間で伝承されるため、文化的な身体の「型」として機能する。身体技法は、個人が「自然」と感じる行動様式であり、その社会的・文化的背景に基づいて無意識のうちに獲得され、実践されるものである。この概念は、人間の身体動作が単なる生物学的または個人的な選択によるものではなく、社会文化的な要因に深く根ざしていることを示している。
10
性向とは?
「性向」とは、個人が社会生活の中で身につける、物事の見方、感じ方、考え方、振る舞い方の傾向やパターンである。 これは過去の経験に基づいて形成され、個人の知覚、思考、実践を特定の方法で方向づける内在的なシステムだ。性向は個人に備わった、ある特定の「傾向」に基づいて行動や反応を立ち上げる「産出の鋳型」として機能し、その人固有の感覚や行動を形成する。ハビトゥスより、一般的なもの。
11
文化的再生産とは?
「文化的再生産」とは、社会的階層間の不平等が世代を超えて継続されるプロセスのこと。 ピエール・ブルデューの理論によると、この再生産は教育システムを通じて行われる。特定の階層の子どもたちが、その階層特有の「ハビトゥス」(身体化された文化、思考や感覚や行動の型)を家庭から獲得し、このハビトゥスが学校教育の場で有利または不利な条件を作り出すため、教育成果に階層間で差が生じる。学校は、特定の文化(主に上層階級の文化)を好むため、その文化に親和性のある子どもたちが教育システムで成功しやすくなり、結果として社会的地位や権力が世代間で「再生産」される。このプロセスは、教育の機会均等が表面上保障されていても、実際には出身階層による教育成果の差異を生み出し、社会的不平等を固定化する
12
文化資本とは?
「文化資本」とは、個人が社会的および経済的地位を獲得または維持するために利用できる非物質的な資源を指す。 文化資本は三つの形態を持つ:身体化された文化資本(知識、技能、教育を通じて個人が身につけた能力や態度)、客体化された文化資本(書籍、美術品、楽器などの物理的な形で所有できる文化的な物品)、そして制度化された文化資本(学位や資格証明など、教育機関によって認定された形式の文化資本)。これらの資本は、社会的地位の獲得や教育機関での成功に影響を与え、社会的な不平等の再生産に寄与することがある。
13
言語資本とは?
「言語資本」とは、社会的なコミュニケーションや交流の場で有利な立場を確保するために使用される、言語能力や言葉遣いのスタイルを指す。 これには、特定の社会的環境や文化的背景に根ざした、言語の使用法、アクセント、語彙の選択、文法的な正確さなどが含まれる。言語資本は、特に教育や就職、社会的な昇進の場において重要であり、個人の社会的階層や出自に応じて異なる。高い言語資本を持つ個人は、学校教育や職場、社会的なネットワーキングの場で有利なポジションを得やすく、これが結果として社会的な不平等の再生産に寄与することがある。ブルデューによれば、学校システムは特定の言語資本を好み、これを基準にして学生を評価し選別するため、出身階層によって異なる言語資本を持つ学生間で不平等が生じる原因となる。
14
社会的問い合わせとは?
「社会的問い合わせ」とは、周囲の人々の反応や態度を参照し、それに基づいて自身の行動や感覚を調整するプロセスのこと。 これは、特に新しい環境や未知の状況において、個人がどのように反応すべきかを判断するために行われる。 例えば、赤ん坊が見知らぬ物体や状況に遭遇した際に、親や養育者の反応を見て自分の反応を決める行動は、社会的問い合わせの典型的な例だ。このプロセスは、社会化の過程において重要な役割を果たし、個人が社会の規範や価値観を内面化する方法の一つとなる。社会的問い合わせは、感覚や行動の社会的学習において中心的なメカニズムであり、個人が社会的な環境に適応し、その中で効果的に機能するために不可欠である。
15
コード・スイッチング、コードミキシングとは?
コード・スイッチングは、話者が二つ以上の言語や方言を使い分けることで、会話の文脈に応じて言語を切り替える現象のこと。例えば、ビジネスの話題では英語を使い、個人的な話題になるとスペイン語に切り替えるような場合がこれに該当する。 コード・ミキシングは、一つの発話の中で複数の言語や方言が混在することを指す。異なる言語背景を持つカップルが会話する際に、一方の言語からもう一方の言語に織り交ぜて話すことが例として挙げられる。これは、個々の文言単位内で言語が混合して使用される現象である。
16
「習慣のレパートリー」としての「ハビトゥス」とは?
「習慣のレパートリー」としての「ハビトゥス」は、人がさまざまな文化的経験を通じて身につける多様な行動や思考のパターンのこと。 これらは一つの固定された型ではなく、個人が遭遇する異なる状況や文脈に合わせて、適宜引き出される様々な行動や思考のスタイルとして内部に蓄えられる。そのため、ハビトゥスは多面的であり、必要に応じて異なる反応や行動が現れるようになっている。
17
実践的類推とは?
実践的類推は、過去の体験が新しい状況で自然と役立つ過程のこと。これにより、人々は過去の経験をもとに、現在の類似した場面でどう行動するか直感的に判断する。つまり、以前の体験が、新しい環境や状況に適応するのに役立つ方法のこと。
18
論理・科学的モード、物語モードとは?
論理・科学的モードとは、物事がなぜ起こるのかを「もしXならばY」という形で一般的なルールに基づいて説明する方法のこと。これは実験や証拠を使って原因と結果を証明することに重点を置いている。 一方で、物語モードとは、物事がどのように起こったかを「Aが起こり、それからBが起こった」と時間の順序で話す方法のこと。これは個々の出来事や人々の行動とその結果を、特定の場所や時間に焦点を当てて語る。 つまり、論理・科学的モードは「なぜ」という普遍的な理由を探し、物語モードは「どのように」という個々の出来事の流れを追う。
19
物語的判断とは?
物語的判断とは、個々の出来事や行動をストーリーとしてつなげて理解し、それを基に「これから何をするか」を決める考え方のこと。 この方法では、出来事の因果関係を簡単につなげて理解し、具体的な状況や経験から直接意味を見出す。つまり、自分の行動や決断を物語のように組み立て、それに従って行動することを意味する。これにより、自分自身の体験をストーリーとして捉え、自分と周りの世界を理解することができる。
20
再帰性とは?
再帰性は、個人が自分自身を振り返り、自己観察、自己評価、自己改善を行う能力を指す。これにより、個人は自分の行動や思考パターンを理解し、必要に応じて改善することができる。 アンソニー・ギデンズによると、近代社会では、人々が自分自身を再帰的に見直し、社会的な変化に適応しながら自己アイデンティティを形成し続けることが求められる。再帰性は、過去の経験から学び、現在を評価し、未来に向けて自己を導く過程を通じて、個人が自己の人生を主体的に形成するのに役立つ。これは現代社会における多様な状況や課題に対応するための重要な能力である。
21
再帰的プロジェクトとしての自己アイデンティティとは?
「再帰性プロジェクトとしての自己アイデンティティ」とは、個人が自分の経験や価値観をもとに自己アイデンティティを積極的に形成し直す過程のこと。 近代社会では、自己アイデンティティは固定されたものではなく、変化する社会と個人の生活に合わせて、個人が自分自身を振り返り、自己観察し、自分の感情や行動を評価することにより、継続的に再構築される「プロジェクト」になる。 このプロセスは、個人が自分の人生に意味と方向性を与え、一貫した自己物語を作り上げることを可能にし、自己成長や自己実現、社会的所属感を促進する。
22
分裂ハビトゥスとは?
「分裂ハビトゥス」とは、人が異なる社会や文化の間を移動する際に感じる内面の緊張や矛盾のことである。これは、人が育った環境と自分が後に経験する環境が異なる場合に生じ、その人の通常の行動や思考パターンが新しい文化や社会的状況と合わない時に起こる。 この状態は、自分の社会的な位置やアイデンティティについて深く考え直すきっかけになり、その人の行動や考え方、感情に影響を及ぼすことがある。「分裂ハビトゥス」は、社会的な移行や文化的変化を経験する人の内面で起こる葛藤や適応の過程を説明するために使われる。
23
ナラティブ・セラピーとは?
ナラティブ・セラピーは、人が経験する問題をその人の人生の物語や話し方を通じて理解し、改善する心理療法。 この方法では、問題は個人の内側の問題ではなく、自分自身と世界について語る物語の一部として見る。セラピーでは、クライエントが自分の物語を話し、セラピストが新しい視点や選択肢を見つけるのを助ける。これにより、クライエントは自己理解を深め、問題への見方や対処法を変えることができる。このアプローチの核心は、問題を「外に置く」ことで、人が問題から距離を置き、自分自身を新たに構築する手助けをすることである。
24
ドミナント・ストーリーとオルタナティブ・ストーリーとは?
「ドミナント・ストーリー」とは、人が自分自身と世界をどう見るかを大きく左右する、社会から受け入れられた主流の物語のこと。これはしばしば、社会の規範や期待に沿ったもので、人の行動や自分に対する理解を形作るが、同時に他の可能性を隠してしまうこともある。 一方、「オルタナティブ・ストーリー」は、主流の物語に疑問を投げかけ、異なる視点や経験を提供する物語のこと。これは、人が自分自身や世界に対して持つ別の見方を探り、新しい自己理解や行動のパターンを開発することを可能にする。オルタナティブ・ストーリーは、見落とされがちな経験や可能性を明らかにし、人が自分をより深く、多角的に理解するのを支援する。
25
病みの軌跡とは?
「病みの軌跡」とは、病気がただ医学的に進行するだけでなく、個人、家族、社会にどのような影響を及ぼすか、また病気に対してどのように対応していくかを全体的に見る概念のこと。 これには、病気が日常生活にもたらす変化、病気に立ち向かう方法、そして病気によって変わる人間関係や社会との接し方など、病気を通じて経験するさまざまな変化が含まれる。病みの軌跡は、病気が個人の生き方や自己認識、周りの人々や医療システムとの関係にどう影響するかを理解するために使われる。
26
生活史の混乱とは?
「生活史の混乱」とは、病気が原因で、人の日常生活や将来の計画が大きく崩れ、変わることを指す。この状態では、人は自分の生活の流れや自己イメージ、日々の活動が乱れ、以前の自分や人生のストーリーとのつながりを失う。 病気はただ体に影響するだけでなく、個人のアイデンティティ、社会的な立場、人間関係、未来への期待など、生活のさまざまな面に深い影響を与え、人生の物語を見直すきっかけとなる。
27
語りの譲り渡しとは?
「語りの譲り渡し」とは、患者が自分の病気体験を医学的な言葉で話すことに無言で合意し、その話す権利を医師に譲ることである。 この過程で、病気に関する話は医師が作り上げ、患者の個人的な感覚や体験は医学的な報告で代替される。これは、患者が自分の病気を医学的な視点でのみ理解し話すことを受け入れることを意味し、その結果、患者は自分の体験に関する主導権をある程度失う。この現象は、医学が病気の経験をどう定義し、患者の自己認識をどう形作るか、近代医療システムの特徴を反映している。
28
寛解者の社会とは?
「寛解者の社会」とは、病気からほぼ回復したが完全には治っていないとされる人たちの集まりのこと。これらの人々は、医療から与えられた病気の定義を越え、自分の言葉で自分たちの病気について話し直す権利を求める。彼らは自分の苦しみやその特別な状況を理解し認められることを望んでいる。この動きは、社会が近代的な医療の見方だけでなく、個人の視点で病気を理解し直すことの重要性を認識している、脱近代社会への移行を示している。
29
回復の語りとは?
「回復の語り」とは、病気や問題を乗り越えて元の健康な状態や生活に戻る過程を話す物語である。 この話では、病気は一時的な障害とみなされ、物語の主人公(病気になった人)は最終的にこの障害を克服して健康を取り戻すことが期待される。この物語の流れは「以前は健康だった、今は病気だが、未来にはまた健康になる」という形をとり、病気の経験は短期的なものとして捉えられる。回復への道のりでは、治療や個人の努力が重要な役割を果たす。
30
混沌の語りとは?
「混沌の語り」とは、人の生活や心の状態が断片化され、予測不能で、明確な流れや解決がない物語のこと。 この物語では、事象間にはっきりしたつながりが見られず、終わりや結論が不明確で、主人公の状況は不安定であるこの語りは、生活の乱れや苦しみを表すもので、聞く人に深い感情を呼び起こすことがあるが、理解や共感を得にくい場合もある。特に重い病気やトラウマを経験した人の話に多く見られ、その人の混乱や苦痛を映し出している。
31
探求の語りとは?
「探求の語り」とは、人が病気や困難を積極的に受け止め、その中から意味や新しい理解を見つけ出す話のスタイルである。 この話では、試練を自己発見のチャンスとみなし、その過程での自己変化や成長を強調する。 苦しみをただの障害ではなく、成長の機会として描き、その経験を通じて学んだことや気づきを共有することで、他人にも希望や勇気を与えることができる。探求の語りは、困難を乗り越え、それを通じて自分自身を再発見し、アイデンティティを再構築する旅を表す
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ナラティブ・ハビトゥスとは?
「ナラティブ・ハビトゥス」とは、人が無意識のうちに身につける、物語を語るやり方や物語に対する好みのパターンである。これは、過去の物語や体験から学んだ、特定の話題に引かれやすい性質や、物語を組み立てる能力、好きな物語の種類、物語の展開を予測する力などを含む。 ナラティブ・ハビトゥスは、どんな物語に惹かれるか、物語をどのように作ったり話したりするかを決める、体に染み付いた習慣のようなもので、物語に対する直感的な反応や感情を形成する。つまり、人が自然にとる物語の語り方や、物語にどう反応するかを決める内部的な傾向のことである。