問題一覧
1
[論証]21 条の「詐術」
21 条の趣旨は、制限行為能力者でないと信じた相手方の信頼を保護し、もって取引の安全を図る点にある。しかし、常に詐術にあたるとすれば制限能力行為者を保護しようとした法の趣旨(5 条以下)を没却してしまう。そこで、両者の調和から単なる黙秘だけでは「詐術」に当たらないが、それが他の言動と相俟って相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときは「詐術」にあたる。
2
[論証]公序良俗90条 動機の不法
そもそも、90 条の趣旨は、反社会的行為の防止にあるため動機が不法な場合でも無効となるように思える。しかし、動機は容易に知りえないため、常に無効とすると取引の安全が害される。したがって、動機が相手方に明示又は黙示に表示され、動機が法律行為の内容となった場合には法律行為は無効になる。
3
[論証]94 条 2 項の「第三者」、過失と登記の要否
94 条 2 項の趣旨は、虚偽の外観作出につき、本人に帰責性がある場合、それを信頼した第三者を保護する点(権利外観法理)にある。そのため、「第三者」とは、当事者及び包括承継人以外の者で虚偽表示の目的物につき、新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。なお、本人の帰責性の大きさ及び文言上も要求されていないことからして無過失と権利保護要件としての登記は要さない。また、94 条 2 項の効果から本人から直接権利移転が生じるため、本人と第三者は前主・後主の関係にあり、対抗要件としての登記も不要である。
4
[論証]94 条 2 項の転得者
94 条 2 項が善意者を保護することに鑑み、悪意者については保護しないと個別具体的に考える見解がある(相対的構成)。しかし、かかる見解ではいつまでも権利関係が確定せず、法的安全性に欠ける。そこで、一度善意者があらわれれば原則として権利関係は確定し、そのあとの悪意者は権利を取得すると考える(絶対的構成)。なお、かかる構成に対しては、わざと善意者を介在させ、悪意者が権利取得しかねな いとの批判がある。しかし、かかる例外的な場合に限って信義則(1 条 2 項)上権利取得を主張できないとすれば足りる。
5
[論証]94条2項本人からの譲受人と転得者
94 条 2 項の趣旨は、虚偽の外観作出につき、本人に帰責性がある場合、それを信頼した第三者を保護する点にある。そのため、帰責性のない者との間では、その効果を絶対的に主張できるとする必要はない。そこで、「対抗することができない」とは、真の権利者が第三者に無効を対抗できないというだけで、虚偽表示が有効となるわけではなく、第三者が真の権利者の権利を法定承継取得することを意味する。したがって、真の権利者からの譲受人と第三者とは、真の権利者を起点とした二重譲渡譲受人であり、両者は対抗関係(177 条)となる。
6
[論証]動機の錯誤(95 条 1 項 2 号)の要件
錯誤とは表意者の認識と事実の不一致を言うところ、95 条 1 項 2 号の要件は、①表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反し、②かかる錯誤に基づく意思表示をした場合に、③法律行為の基礎とした事情が法律行為の基礎として「表示」(同 2 項)され、④錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要」、すなわち表意者及び一般人において錯誤がなければ、意思表示をしなかったといえる場合である(同 1 項柱書)。なお、基礎事情の「表示」を要求した 95 条 2 項の趣旨は、通常相手方が動機を了知することができないため、取引の安全と錯誤取消による表意者保護との調和を図った点にある。そのため、「表示」されたと評価できるのは、単に動機が相手方に示されたのみならず、それが相手方に了解されて法律行為(意思表示)の内容となることで、表意者の錯誤が保護に値するとともに、相手方に錯誤のリスクを転嫁することが正当化できる場合をいう。
7
重過失(95条3項)
普通人ならば注意義務を尽くして錯誤に陥ることがないにもかかわらず、著しく不注意であったため錯誤に陥ったといえる場合 →予見可能性を基礎付ける事情と結果回避義務を怠った事情を検討する
8
[論証]「第三者」の意義(95条4項)
95 条 4 項の趣旨は、取消しの遡及効(121 条)を制限することで取引の安全を図る点にある。そのため、「第三者」とは、遡及効により取引の安全が害される者、すなわち、取消の意思表示の前に、錯誤による意思表示によって生じた法律関係に基づき新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。
9
[論証]単なる沈黙
契約当事者は互いに対等な立場にある以上、自己の利益は自ら守るべきという考えに基づいて契約締結に際して必要な情報は自分で集めることが原則である。そのため、単なる沈黙には違法性が認められないのが原則である。もっとも、単なる沈黙も表意者を害しうる以上、いかなる場合にも違法性が認められないとすると表意者保護に欠く。そこで、告げられなかった情報が表意者の意思表示をする上で重要な事項に関するものであること、そのような重要性を相手方が知っていたこと、相手方がその情報を現 に有していたかがごく容易に入手し得たこと、その情報を表意者に伝える必要があると認識していたことを考慮し、情報提供義務が認められる場合、かかる義務の違反があれば欺罔行為の違法性が認められる。
10
[論証]96 条 1 項取消後の第三者保護
取り消しの遡及効はあくまで法律関係を簡明にするための法的擬制に過ぎず、これを取消しの効果として生じた復帰的物権変動と観念できる。すなわち、二重譲渡に類似した関係となる。そのため、取消し後には登記によって権利関係を画一的に処理すべきとする 177 条の趣旨が妥当する。
11
[論証]96 条 3 項の第三者の登記
96 条 3 項の趣旨より第三者が法律上の利害関係を有するに至った時点以後に問題となる登記の具備は、第三者の信頼に影響を及ぼすものではないため、権利保護要件としての登記は不要である。また、本人から直接権利移転が生じるため、本人と第三者は前主・後主の関係にあり、対抗要件としての登記も不要である。
12
[論証]代理行為の瑕疵
代理において意思表示するのは代理人であり、本人は意思表示に関与しないことから、法律行為の当事者は代理人と相手方といえるので(代理人行為説)、代理における意思表示の瑕疵の有無は原則として代理人について判断され、本人の事情は考慮されない。(101 条 1 項)
13
[論証]本人名義でされた代理人による法律行為
「本人のためにすることを示して」(99 条 1 項)として顕名を要求した趣旨は、法律行為の効果帰属主体を明らかにし、取引の安全を図る点にある。そして、代理人が直接本人名義で法律行為をした場合も、法律行為の効果帰属主体は明らかであるといえる。したがって、かかる場合も趣旨を満たし本人に効果帰属すると考える。
14
[論証]107 条の趣旨
107 条の趣旨は、代理権濫用事例において無権代理とみなすことで、本人に追認もしくは無効を選択させるとともに、相手方の代理人に対する責任追及(117 条 1 項)を認めさせることで、本人の利益と相手方の取引の安全を図るとともに、単に無効(119 条)としないことで、柔軟な事案の解決を図った点にある。
15
[論証]「代理人と本人との利益が相反する行為」(108 条 2 項)(「利益…相反…行為」(826 条 1 項)と同)
外部から容易に判断できない親権者の内心を考慮に入れるとすれば取引の安全を害する。そこで、利益相反にあたるか否かは、行為者の動機などを考慮せず、専ら行為の外形から形式的に決するべきである。
16
[論証]親権者(824 条本文)の代理権濫用
法は子の財産管理につき親権者に広範な裁量権を与えている(824 条本文)。そのため、利益相反にあたらない行為については、親権者に法定代理権を授与した法の趣旨に著しく反する場合でない限り、親権者による代理権の濫用(107 条)とみるべきではない。
17
[論証]授権行為の取消しと授権表示
「表示」は、観念の通知であり、意思表示でないため、意思表示の規定を直接適用することはできないが、他者との法律関係の形成を目指して行われる点で意思表示に類似するため、意思表示の規定が類推適用される。したがって、代理権授与行為の取消しにより、「表示」も初めから無効であったものとみなされるため、「表示」は認められないのが原則である。 しかし、109 条 1 項の趣旨は、代理権授与の表示という外観を信頼して、取引に入った第三者を保護する点にあり、109 条 1 項においては、外観の存在が重要である。他方で、取り消した本人保護にも配慮しなければならない。そこで、回収できるだけの期間が経過した後に、なお外観が存在している場合には、「表示」は認められる。
18
[論証]白紙委任状交付の場合の処理
本人の利益と行為の相手方の利益調整の観点から、直接被交付者が濫用した場合には授権表示ありと認められるが、転得者が濫用した場合には委任事項の濫用がない場合に限って授権表示ありと認められると考える。
19
[論証]「日常の家事」の意義
761 条の趣旨は、夫婦の共同生活の円滑な運営を図る点にある。そのため、「日常の家事」とは、夫婦が共同生活を営む上で通常必要な法律行為をいう。そして、761 条の趣旨は、夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護にあるため、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。
20
[論証]法定代理権と 110 条の基本代理権
110 条の趣旨は、本人犠牲の下、基本代理権を信用して取引に入った第三者の保護を図る点にある。そして、法定代理権の場合にも、取引の安全の必要性は同様であり、本人の静的安全の保護は「正当な理由」の有無で図ればよい。また明文上も任意代理権に限られているわけではない。
21
[論証]761 条の法定代理権を基本代理権とする 110 条の適用
110 条を直接適用すると、夫婦であるというだけで権利を失う恐れがあり、夫婦の財産的独立を害し、夫婦別産制(762 条 1 項)に抵触する。そのため、110 条を直接適用することはできない。もっとも、相手方保護の必要もあるため、当該越権行為の相手方である第三者において、その行為が当該夫婦の日常家事行為の範囲内に属すると信じるにつき「正当な理由」があるときに限り、110 条の趣旨を類推適用する。
22
[論証]本人が無権代理人を相続(本人相続型)
相続によって本人と無権代理人の地位が融合され、当然に無権代理の追認(113 条 1 項、116 条本文)が生じるという見解もある(地位融合説)。しかし、相続という偶然の事情により無権代理行為を潔しとしない相手方の取消権の行使(115 条本文)や、本人の追認拒絶権を否定すべき理由は無い。また、相続制度は、被相続人が生前有していた法律関係を維持するものであり、両者の地位が融合すると考える必要はなく、 併存すると考えるべきである(地位併存説)。本人はその地位に基づいて追認拒絶権を行使できる。もっとも、本人は無権代理人の責任(117 条)も相続(896 条本文)するため、相手方が無権代理人の責任追及として履行を選択すれば原則応じなければならない。ただし、本人は相続がなければ本来履行を拒めたのであり、相続という偶然の事情により本人を不当に扱うべきではない。よって、無権代理人の責任が代替性のない特定物引渡債務の場合は例外的に履行を拒め、相手方は損害賠償請求のみ可能となる。
23
[論証]無権代理人が本人を相続(無権代理人相続型)
[地位併存説の論証]したがって、当然に追完が生じるわけではない。もっとも、無権代理人が本人の立場において追認拒絶することは、無権代理行為をしておきながら追認拒絶をするという前後矛盾行為であり、禁反言といえ信義則(1 条 2 項)上許されない。
24
[論証]本人が追認拒絶した後に無権代理人が本人を相続
無権代理人が相続した本人の地位に基づき追認拒絶することは、禁反言にあたり信義則に反するとも思える。しかし、本人が生前追認を拒絶すれば無権代理の効果が本人に及ばないことが確定し、その後は本人であっても追認して有効とすることはできない。また、追認拒絶は既に確定していることから相手方に不測の損害を与えることはない。したがって、無権代理人は、自己の無権代理行為を本人の立場において追認拒絶して履行を拒むことができる。
25
[論証]無権代理人と他の共同相続人が本人を相続
[地位併存説から無権代理人は本人の地位も相続 but 無権代理人の追認拒絶は禁反言] しかし、本人は契約の一部だけの追認をすることはできないのであり、本人を共同相続人が相続した場合、追認権は相続人全員に不可分に帰属(準共有1、264 条本文)し、その行使には全員の「同意」が必要である(251 条)。したがって、追認は、共同相続人全員が揃って追認しなければ、契約は全く本人に効果帰属していたものとはされず、無権代理人の持分についても追認はなされない 。
26
[論証]無権代理人と本人の地位両方を相続(第三者相続型)
無権代理人を先に相続した後に本人を相続した場合、無権代理人が本人を相続した場合と同じであり、追認拒絶は信義則に反するように思える。しかし、無権代理人の追認拒絶が禁じられるのは、無権代理行為をしていることから追認拒絶が矛盾的態度にあたるためであり、相続人自身は無権代理行為をしていない以上、これは当該相続人に当てはまらない。また、本人を先に相続し、後に無権代理人を相続した場合追認拒絶ができるが、これは本人と無権代理人いずれが先に死亡するかという偶発の事情によって法的結果が大きく異なり、妥当ではない。そのため、無権代理人を相続した後に本人を相続した第三者は、本人の資格で追認を拒絶できる。
27
[論証]無権代理人の後見人就任と追認拒絶の可否
この点、成年後見人は包括的代理権を有する(859 条 1 項)以上、追認権・追認拒絶権を有する。そして、成年後見人は成年被後見人の利益に合致するように代理権を行使すべきであるから、追認拒絶が成年被後見人の利益に合致するのであれば追認拒絶できると思える。しかし、相手方のある法律行為にあたっては、相手方の利益にも相応の配慮を払うべきである。したが って、追認拒絶が相手方の信頼を裏切ることになるような例外的な場合には、追認拒絶は信義則に反し許されない。かかる場合にあたるか否かは、追認により成年被後見人が被る経済的不利益と追認拒絶により相手方が被る経済的不利益、本人の意思能力について相手方が認識し又は認識し得た事実等を考慮して決すべきと考える。
28
[論証]時効の効果(不確定効果説・停止条件説)
時効制度は永続した事実状態の尊重をするとともに、当事者の意思を尊重するものである(145 条参照)。そのため、時効期間の経過によって権利の得喪が確定的に生じるものではなく、援用によって初めて確定的にその効果が生じ、時効利益の放棄によって効果の不発生が確定すると考える。
29
[論証]「当事者」(145 条)の意義
時効制度の永続した事実状態を尊重するという趣旨と、当事者の意思の尊重という 145 条の趣旨の調和の観点から、「当事者」とは、権利の取得について「正当な利益」を有する者を言う。具体的には、①時効を援用しようとする者とその相手方との間に、直接の法律関係を観念しうるかどうか、②その直接の法律関係が、他の援用権者の権利義務と別個に独立して権利取得や義務消滅を導くものかどうか、の観点から判断する。
30
[論証]時効完成後の債務承認
時効援用権は放棄しうる(146 条反対解釈)が、放棄は意思表示であるため時効完成を知らないでした承認的行為は放棄と考えることはできない。もっとも時効完成後、占有者が真の権利者の権利の存在を承認していたにもかかわらず時効による権利取得の効果を認めるのは矛盾であり、もはや時効の援用はしないであろうという相手方の信頼を保護する必要がある。そこで、信義則(1 条 2 項)上、時効援用権の喪失として、援用は許されないと考える。
31
[論証]物上保証人による承認と時効の更新
承認により時効が更新する根拠は、債務者が自己の債務を承認することにより、永続した事実状態が破られる点にある。しかし、物上保証人は責任を負うものの、債務は負っていないため、物上保証人は「承認」をなし得ない。
32
[論証]自己の物の時効取得
取得時効制度の趣旨は、永続した事実状態を尊重する点にあり、占有者が誰の所有物であるかは無関係である。また、「他人の物」と規定したのは通常の場合を想定したに過ぎない。したがって、自己の物であっても時効取得しうると考える。
33
[論証]不動産賃借権(601 条)と「所有権以外の財産権」
原則として債権は一時的もしくは断続的給付が目的であり、永続した事実状態の尊重という時効制度の趣旨になじまない。しかし、不動産賃借権は継続的給付を目的とする債権であり、占有を不可欠の要素とするものであるから、永続した事実状態を観念できる。また、不動産賃借権の物権化の傾向及び機能としての地上権(265 条)との類似性を考慮すべきである。もっとも、真の権利者による時効更新の機会を確 保する必要がある。そのため、目的物の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつそれが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているといえる場合には、賃借権も「所有権以外の財産権」にあたる。
34
[論証]①占有権と「一切の権利義務」(896 条本文)
確かに、占有権は事実状態を基礎とするものであり、「権利義務」には当たらないようにも思える。しかし、相続制度の趣旨は、被相続人の財産を相続人に承継させ、親族的共同生活関係に基づく生活保障を図る点にあるところ、占有権の相続を否定すれば、親族的共同生活関係に基づく生活保障が害されてしまう。また、占有権も財産権であり、「権利義務」としての側面を有する。したがって、占有権も「一切の権利義務」として相続される。
35
[論証]②相続人と「承継人」(187 条 1 項)
187 条 1 項は、占有承継人は前主の占有を引き継ぐとともに、自己固有の占有を取得するという二面性に着目した規定である。そして、このような二面性は相続による占有の承継にも認められる。したがって、相続人も「承継人」にあたり、自己固有の占有の主張をなしうる。
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[論証]③相続と「新たな権限」(185 条後段)
時効制度の趣旨は、永続した事実状態を尊重する点にある。相続が「新たな権限」にあたらないとすれば、時効取得の可能性がなくなり、かかる趣旨に反する。他方で、相続は、被相続人の死亡によって開始するものであるため(882 条)、真の権利者たる所有者は容易に相続の開始を認識できず、直ちに時効取得を認めてしまうと時効の完成猶予及び更新の機会を奪うことになる。従って、両者の調和の観点から 186 条 1 項の推定が働かず、相続人においてその事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すれば、相続が「新たな権限」であると認められる。
37
[論証]占有改定と時効の客観的起算点
売買契約において「権利を行使することができる時」とは、買主が目的物の検査をすることが可能になった時点であるため、契約時ではなく引渡時を指す。しかし、占有改定による引渡等では、買主が引渡時において現実に目的物を検査し、権利行使することは不可能である。そのため、かかる場合には、現実に引渡しを受けるなど、買主が検査をなしうるようになった時点を時効の客観的起算点と考える。
38
[論証]自己の物の時効取得
取得時効制度の趣旨は、永続した事実状態を尊重する点にあり、占有者が誰の所有物であるかは無関係である。また、「他人の物」と規定したのは通常の場合を想定したに過ぎない。したがって、自己の物であっても時効取得しうると考える。
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[論証]不動産賃借権(601 条)と「所有権以外の財産権」
原則として債権は一時的もしくは断続的給付が目的であり、永続した事実状態の尊重という時効制度の趣旨になじまない。しかし、不動産賃借権は継続的給付を目的とする債権であり、占有を不可欠の要素とするものであるから、永続した事実状態を観念できる。また、不動産賃借権の物権化の傾向及び機能としての地上権(265 条)との類似性を考慮すべきである。もっとも、真の権利者による時効更新の機会を確保する必要がある。そのため、目的物の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつそれが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているといえる場合には、賃借権も「所有権以外の財産権」にあたる。
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[論証]①占有権と「一切の権利義務」(896 条本文)
確かに、占有権は事実状態を基礎とするものであり、「権利義務」には当たらないようにも思える。しかし、相続制度の趣旨は、被相続人の財産を相続人に承継させ、親族的共同生活関係に基づく生活保障を図る点にあるところ、占有権の相続を否定すれば、親族的共同生活関係に基づく生活保障が害されてしまう。また、占有権も財産権であり、「権利義務」としての側面を有する。したがって、占有権も「一切の権利義務」として相続される。
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[論証]②相続人と「承継人」(187 条 1 項)
187 条 1 項は、占有承継人は前主の占有を引き継ぐとともに、自己固有の占有を取得するという二面性に着目した規定である。そして、このような二面性は相続による占有の承継にも認められる。したがって、相続人も「承継人」にあたり、自己固有の占有の主張をなしうる。
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[論証]③相続と「新たな権限」(185 条後段)
時効制度の趣旨は、永続した事実状態を尊重する点にある。相続が「新たな権限」にあたらないとすれば、時効取得の可能性がなくなり、かかる趣旨に反する。他方で、相続は、被相続人の死亡によって開始するものであるため(882 条)、真の権利者たる所有者は容易に相続の開始を認識できず、直ちに時効取得を認めてしまうと時効の完成猶予及び更新の機会を奪うことになる。従って、両者の調和の観点から 186 条 1 項の推定が働かず、相続人においてその事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すれば、相続が「新たな権限」であると認められる。
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[論証]占有改定と時効の客観的起算点
売買契約において「権利を行使することができる時」とは、買主が目的物の検査をすることが可能になった時点であるため、契約時ではなく引渡時を指す。しかし、占有改定による引渡等では、買主が引渡時において現実に目的物を検査し、権利行使することは不可能である。そのため、かかる場合には、現実に引渡を受けるなど、買主が検査をなしうるようになった時点を時効の客観的起算点と考える。