人の許いふべき事ありて、文を(やる)とて、

なき人を(しのぶる)宵のむら雨に濡れてや来つる山時鳥

やうやう夜も明けゆくに、 見れば(率て)来し女もなし。

この世に(ののしり)たまふ光源氏、かかるついでに見たてまつりたまはんや

え(さら)ぬことのみいとど重なりて、

何事なりとも(あきらめ)申さん。

(匂の宮は · 養母の紫の上に死後の供養を頼まれて、) うちうなづきて、 御顔を(まもり)て、 涙の落つべかめれば立ちておはし

黒崎の松原を(へ)て行く。

<光源氏は酔ったふりをして宴を退出し 寝殿の女房に話しかけた> いといたう強ひられて、 (わび)にて侍り

<ほかの女のもとに夫か通うようになった妻け平気を装っていたが>心地にはかぎりなく妬く心憂く思ふを、(しのぶる)になむありける

さる御文をだに(ものせ)させ給へ。

<山の桜はまだ盛りで、 貫の様子も美しく見えるので、> [光源氏は] かかる有様も(ならひ)給はず、ところせき御身にてう思されけり

<人々は飢饉に苦しんで> 念じ(わび)つつ、様々の財物かたはしよりつるが如くすれども、

里びたる声したる犬どもの出で来て(ののしる)も、いと恐ろしく

さすが(ならは)ぬ道なれば

後の矢を(たのみ)て、 初めの矢になほざりの心あり。

<伏見稲荷に一念発起して参詣したときに、> 中の御社のほどの、わりなうくるしきを、(念じ)のほるに、

<老人は大君のつらそうな様子を語る。> 言ひも(やらず)泣くさま、ことわりなり。

かく世を離るるさまに(ものしたまへ)ば、

限りなく遠くも来にけるかな、と(わび)合へるに、

夕(され)ば野辺の秋風身にしみて鶉鳴くなり深草の里

三寸ばかりなる人、 いとうつくしうて(ゐ)たり。

<故中務の宮は北の方がわ亡くなりになって後>ちひさき君たちをひき(ぐし)て、 三条右大臣殿にすみたまひけり。

物の隠れよりしばし見(ゐ)たるに

<稚児は自分の仕える僧たちが , ぼたもちを作ろうと言ったのを聞いて心待ちにしていたが、 寝ないで待っているのもみっともないだろうと思い、寝たふりをしていた。やがてぼたもちはできあがり、 稚児の期待どおり僧は声をかけてくれたが、> ただ一度に(いらへ)むも、 待ちけるかともぞ思ふとて、

坏なども(具せ)ざりければ · 手にむすびて食はす。

左の大臣の北の方にて(ののしり)給ひける時、

<中納言は>御衣脱ぎて(かづけ)給うつ

禄に大袿(かづき)て

寺、社などに(しのび)てこもりたるもをかし。

<仁和寺の法師が酔って興に入ったあまり、> かしら 傍らなる足鼎を取りて 頭に(かづき)たれば、

(継母だった人は梅の花が咲いたら作者のもとを訪れると約束してく れたのに来てくれない。 (たのめ)しをなほや待つべき

いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重に(にほひ)ぬるかな

<光源氏はお尋ねになった。> 中将はいづこより(ものし)つるぞ。

かの奉る不死の薬壺に文(具し)て、 御使に賜はす。

懐に(設け)たる , 柄短き筆など 、 御車とどむる所にて奉れり。

日ごろ(経)て、 宮に帰りたまうけり。