問題一覧
1
日もいと長きに、
日もとても長くて、
2
つれづれなれば、
することもなく所在ないので、
3
夕暮れのいたう霞みたるに紛れて、
夕暮れのたいそう霞んでいるのに紛れて、
4
かの小柴垣のもとに立ち出でたまふ。
あの小柴垣のあたりにお立ち出でになる。
5
人々は帰したまひて、
供人たちはお帰しになって、
6
惟光朝臣とのぞきたまへば、
惟光朝臣とのぞきなさると、
7
ただこの西面にしも、
すぐそこの西面の部屋に、
8
持仏すゑたてまつりて行ふ尼なりけり。
持仏をお据え申してお勤めしている尼なのであった。
9
簾少し上げて、
簾を少し上げて、
10
花奉るめり。
花をお供えしているようである。
11
中の柱に寄りゐて、
中の柱に身を寄せて座って、
12
脇息の上に経を置きて、
脇息の上に経巻を置いて、
13
いとなやましげに読みゐたる尼君、
ひどく大儀そうに読経している尼君は、
14
ただ人と見えず。
普通の身分の人とは見えない。
15
四十余ばかりにて、
四十すぎぐらいで、
16
いと白うあてに、
とても色が白く上品で、
17
やせたれど、
ほっそりしているけれども、
18
つらつきふくらかに、
頰はふっくらとしていて、
19
まみのほど、
目元のあたり、
20
髪のうつくしげにそがれたる末も、
髪が見るからに美しく切りそろえられてある端も、
21
なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかな、
かえって長いのよりも格別当世風であるなと、
22
とあはれに見たまふ。
心ひかれてご覧になる。