国境の長いトンネルを越えると

山路を登りながら、こう考えた。

死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。

私は、その男の写真を三葉、見たことがある。

ある日の暮れ方のことである。

禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。

幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」

きょう、ママンが死んだ。

ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう。

えたいの知れない不吉な塊が私の心を終始圧えつけていた。

さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、

クラスメイトであった山内桜良の葬儀は、生前の彼女にまるで似つかわしくない曇天の日にとり行われた。

青い空がどこまでも続いていた。

森の匂いがした。

彼のことを、私と息子は博士と呼んだ。

コンビニエンスストアは、音で満ちている。

晴天というのは不思議なものだ。

なんたる失態だ……私は慨嘆した。釈明の余地のない失態である。

かれは年をとっていた。メキシコ湾流に小舟を浮べ、ひとりで魚をとって日をおくっていたが、一匹も釣れない日が八十四日もつづいた。

僕が六歳だったときのことだ。「ほんとうにあった話」という原生林のことを書いた本で、すごい絵を見た。

それはまるで、独楽の芯のようにきっちりと、ど真ん中に突き刺さっている

澪が死んだとき、ぼくはこんなふうに考えていた。

ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。

ドアノブをつかむ。氷を握ったように冷たい。

石炭をば早や積み果てつ。

1930年3月8日。神戸港は雨である。

こんな夢を見た

4月は最も残酷な月だ

蓮華寺では下宿を兼ねた

歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である

春が2階から落ちてきた

大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

男もすなる日記といふものを女もしてみんとてするなり

かくありし時過ぎて、世の中にいとものはかなく、とにもかくにもつかで、世に経る人ありけり。

千早振る神無月ももはや跡二日の余波となッた二十八日の午後三時頃に

廻れば大門の見返り柳いと長けれど

木目美しき槻胴

この数年来、小畠村の閑間重松は姪の矢須子のことで心に負担を感じて来た

道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、