問題一覧
1
植物工学を可能にする原理について説明せよ。
植物には、体細胞を培養することで植物体が再生する文化の全能性を持つから。
2
植物ホルモンの濃度比率が細胞培養に与える影響について答えよ。
細胞培養には、オーキシンとサイトカイニンが関与しており、オーキシンの濃度比が高いときは、根に分化し、サイトカイニンの濃度比が高いときには茎葉に分化する。 オーキシンとサイトカイニンの濃度が中間の時は、未分化のまま増殖するカルスが発生する。
3
ウイルスフリー苗を得るために必要な過程について説明せよ。
茎頂の生長点には、ウイルスが感染しにくいという特徴がある。これを利用した茎頂培養を行うことでウイルスフリー苗を得ることができる。 具体的な方法として、最初に植物体から茎頂を含む植物組織を切り取り、次亜塩素酸で組織表面を殺菌する。その後、実体顕微鏡を用いて茎頂付近をメスで切り取り、寒天培地に移して培養する。幼植物にウイルス感染が見られないことを確認し、繁殖させる。
4
植物工学にて半数体を用いることの利点は何か。
減数分裂の過程で染色体が半減した半数体植物を倍加させることで、比較的短期間で同質倍数体を得ることが可能になる。 具体的な方法としては、目的とする植物同士を交配後、葯を取り出し、培養することで植物体の一部から半数体を得ることが可能となる。 半数体となった植物体の生長点にコルヒチン処理を行うことで、染色体の倍加が起こり、遺伝的に同質の倍数体が得られる。
5
ソマクローナル変異について説明せよ。
体細胞由来の細胞を一定期間培養し、植物体を再生させると、有用な形質を持った変異体が発生する。
6
人工種子について説明せよ。
種苗の生産効率化に用いられる。人工種子を得るためには、培地から2-4D(人工オーキシン)を除外し、胚様体を得る。胚様体にアルギン酸ナトリウムを混合し、さらにカルシウムを加えてゲル化させる。これにより、錠剤となった人工種子が得られる。
7
ハイブリドーマについて説明せよ。
腫瘍細胞と生体細胞の融合体であり、腫瘍細胞由来の増殖性と生体細胞由来の機能を併せ持つ。例として、マウスの形質腫瘍細胞と抗体酸性細胞を融合させることでモノクローナル抗体を得ることが可能。
8
細胞融合の原理について説明せよ。
細胞融合の方法として、分子間力の利用と誘電電気泳動の2つが行われる。 細胞間において、分子間力は引力、表面電荷は反発力として働くため、表面電荷が弱くなれば、細胞の凝集が起き、細胞接着が起こる。 誘電電気泳動では、細胞同士を接着させた後、短時間のパルスを放射することで細胞膜上の脂質膜が誘電崩壊を起こし、一時的に膜構造が破壊される。その後、エネルギー的に安定な方向に膜の修復が起こり、プロトプラスト同士が融合する。
9
融合産物の選抜に用いられる方法について答えよ。
セルソーター:プロトプラストを蛍光標識し、レーザーを照射して電場をかけて移動した場所の違いにより識別する。, 密度勾配遠心法:プロトプラストの比重は、葉肉細胞由来の物が表皮由来のものよりも大きくなる。融合産物はその中間となる。, 顕微鏡分取法:顕微鏡下でパスツールピペットを用いて融合産物を採取する。
10
ナース培養について説明せよ。
増殖させたい細胞が少ないときあるいは特定の物質が必要な時、他の細胞の助けを借りて、増殖させる。
11
培養段階での選抜について具体例と合わせて説明せよ。
培養段階での選抜として、代謝系の相補が用いられる。植物細胞では硝酸レダクターゼサブユニットの欠損が用いられる。硝酸レダクターゼは、アポタンパク質(NIA)とモリブデン共役因子(CNX)の2つのサブユニットから構成される。 タバコ培養細胞株の内、アポタンパク質欠損株nia68とモリブデン共役因子欠損株cnx63からそれぞれプロトプラストを得る。 高濃度のポリエチレングリコール条件下でプロトプラスト同士を細胞融合させ、アミノ酸を加えた培地上でコロニー形成を促す。その後、窒素源が硝酸のみの培地で生育させると、双方の遺伝子欠損を相補した融合産物のみがコロニーを形成することができる。
12
非対称細胞融合について説明せよ。
異なる科に属する植物同士の組み合わせをいう。植物A・Bから調製したプロトプラストを融合する。この内、植物AはX線あるいはγ線を照射して細胞分裂能力を欠損させておく。一方で植物Bの方は、ヨートアセトアミド処理により、ミトコンドリアの機能を阻害して、コロニー形成能力を失活させる。これにより、融合産物の中でABの組み合わせのみが培地上で生存することができる。この時、植物Aの遺伝子は一部が取り込まれた状態となっている。
13
T-DNAが植物細胞に移行するために必要な機構を答えよ。
T-DNA両端の25塩基の正の反復配列, 腫瘍誘導に関わるvir領域, 細菌が持つ植物細胞への接着に必要な遺伝子chv
14
植物とアグロバクテリウムの相互関係を利用して、形質転換が行われる過程について説明せよ。
植物側が生産するフェノール性化合物アセトシリンゴンがアグロバクテリウム側のVirAタンパクに作用し、次いでVirGタンパクを活性化させる。Vir領域の遺伝子群がシストロンとして活性化し、T-DNAのT鎖が切り出され、植物細胞に移行する。
15
バイナリーベクターについて説明せよ。
アグロバクテリウムと大腸菌の両方で増殖可能なプラスミドの一部に目的遺伝子を導入する。一方でアグロバクテリウム側には、T-DNAを欠損しているが、Vir領域は保存されたプラスミドが存在。両方で増殖可能なプラスミドをアグロバクテリウムに導入すると、欠損プラスミドが持つVir領域は離れた位置から作用して、導入されたプラスミドのT-DNA領域を植物細胞へと移行させる。
16
トランスポゾンについて説明せよ。
レトロトランスポゾンとDNAトランスポゾンが存在する。レトロトランスポゾンは、自身のコピーであるRNAを合成し、逆転写によってcDNAを合成。合成されたçDNAはゲノム中のランダムな位置に挿入される。このため、ゲノム中のレトロトランスポゾンは増加傾向にある。 一方で、DNAトランスポゾンは自身にコードしたトランスポゼース活性により、ゲノムDNAから切り出され、新しい場所へと転移する。そのため、ゲノム内のDNAトランスポゾンの量は常に一定である。
17
トランスポゾンの挿入によって生じる突然変異について説明せよ。
トランスポゾンが遺伝子のコード領域に転移した場合、その遺伝子は不活化される。また、トランスポゾンが遺伝子の近くに転移した場合でも、遺伝子発現形式が変化する。トランスポゾンはプロモーター活性を持つため、転移した場所では遺伝子発現が促進される。
18
減数分裂前期1で起こる工程5つ答えよ
レプトラン期:遺伝子の組み換えが起こる, ザイゴテン期:相同染色体が対合歯、シナプトネマ複合体を形成, パテテン期:染色体の凝集, ディプロテン期:キアズマ形成, ディアキネシス期:セントロメアの解離
19
同質倍数体と異質倍数体の違い
同質倍数体は1つの種の全ゲノムを複数持ち、異質倍数体は2つ以上の種の全ゲノムを複数持つ。倍数体は正常な減数分裂が行われないことで生じる。倍数体では、四分子が形成されず、二倍体の非還元配偶子が形成される。
20
ゲノム重複によって倍数体が生じる過程について説明せよ。
①二倍体(2N)の種からできた非還元性二倍体配偶子(2N)が融合して同質四倍体が生じる。, ②二倍体(2N)ゲノムの重複が生じて、同質四倍体が生じる。, ③異なる種の半数体卵、半数体精子が受精して、種間雑種を形成。まれに非還元性雑種配偶子を形成し、別の非還元性雑種配偶子と融合して異質倍数体を形成する。
21
三倍体架橋について説明せよ。
還元配偶子(1N)と非還元配偶子(2N)が受精して、三倍体(3N)を形成, 三倍体由来の3N非還元配偶子と1Nの還元配偶子が受精して四媒体を形成
22
細胞内共生説の根拠を答えよ
ミトコンドリアと葉緑体は内外二重膜に覆われている。これは、原核細胞に取り込まれた好気細胞、光合成細胞由来の膜が残ったものだと考えられる。, 細胞小器官のゲノムと原核細胞のゲノム配列が類似している。細胞小器官のゲノムは核膜に覆われていないため、核様体という。
23
ミトコンドリア・葉緑体における遺伝子発現について説明せよ。
細胞小器官の遺伝子発現形式として、片親遺伝と栄養分離が挙げられる。片親遺伝では、片方の親から細胞小器官を受け継ぐ。色素体では、針葉樹では雄親から、被子植物では雌親からそれぞれ受け継ぐ。 栄養分離では、配偶子とは異なり、有糸分裂を行い、遺伝的に異なる栄養細胞になる。
24
細胞内で二本鎖RNAが生じる過程について説明せよ。
正常な発生の過程によって生じるmiRNA, 遺伝子を不活化するsiRNAが存在, ウイルスやトランスポゾンなどの外来RNAが導入されている
25
miRNAの合成過程について説明せよ。
植物はmiRNAをコードする遺伝子を数百個持っており、特定のmRNAがタンパク質に翻訳されることを防いだり、mRNAの分解を促進する。miRNAは最初にRNAポリメラーゼⅡによってpri-miRNAとして転写される。5’末端にはキャップ構造、3'末端にはポリA尾部が付加される。 次に一本鎖miRNAの両端が塩基対を形成して、二本鎖のステムを持つ。pri-miRNAはプロセシングを受けて、pre-miRNAとなる。pre-miRNAはダイサー様タンパク質DCL1、二本鎖RNA結合ドメインを持ったHYC1タンパクの働きにより成熟したmiRNAとなる。
26
siRNAの合成過程について説明せよ。
逆向きのプロモーター配列から転写される。, タンデムに重複した配列を逆向きに転写(センス鎖、アンチセンス鎖), 回文配列が二本鎖となる。, RNA依存性RNAポリメラーゼが一本鎖mRNAからもう一本のmRNA鎖を合成し、二本鎖mRNAとする。
27
RNA干渉の過程について説明せよ。
ダイサー様タンパク質によって合成されたmiRNA、siRNAはRISC複合体の活性中心であるAGOタンパク質に結合する。 二本鎖RNAの内、一方が除かれると、RISC複合体が活性化する。RISC複合体は自身が持つmiRNAに相補的なmRNAに結合し、切断。生じたmRNA断片は細胞質内で分解される。siRNAはDNAやヒストンのメチル化を誘導する。
28
ウイルス感染に対するRNA干渉について説明せよ。
ウイルスが植物細胞に感染すると、ヘアピン構造の形成あるいは宿主のRNA依存RNAポリメラーゼを利用して二本鎖RNAを形成する。 ダイサーはウイルス二本鎖RNAを切断し、siRNAを形成。siRNAはRISC複合体に取り込まれる。RISC複合体は自身に結合したsiRNAに相補的なウイルスmRNAを特定、メチル化酵素をリクルートすることで遺伝子発現を抑制する。
29
ペチュニアの紫色素を合成する酵素遺伝子を別のペチュニアに導入して紫色の花弁を作ろうとしたところ、導入された植物体の花弁は全て遺伝子が抜け落ちたような白色になった。この現象について説明せよ。
ペチュニア紫色色素分子を合成する経路に関わるカルコン合成酵素遺伝子が過剰に導入された結果、遺伝子発現が抑制されるコサプレッションが起きたと考えられる。 植物体内で過剰に発現したカルコン合成酵素遺伝子がRNA依存RNAポリメラーゼによる二本鎖RNA合成を促進し、RNA干渉が誘導されたと考えられる。 これにより、導入されたカルコン合成酵素遺伝子と元々植物体内で発現していたカルコン合成酵素遺伝子がサイレンシングを受け、花の色は白色になったと考えられる。
30
翻訳後の調節について、タンパク質分解の過程を説明せよ。
細胞質内のタンパク質量は、ユビキチン化とそれに伴う26Sプロテアソームによる分解によって調整されている。 最初にユビキチン活性化酵素E1がユビキチンのC末端をアデニル化する。次にアデニルかされたユビキチンがユビキチン結合酵素E2のシステイン残基に転移する。 一方で、標的タンパク質にはユビキチン結合リガーゼE3が結合。E2ーユビキチン複合体は、E3が結合している標的タンパクのシステイン残基にユビキチンを転移。この過程を繰り返すことでユビキチンが多量化する。26Sプロテアソームはユビキチンによってタグ付けされたタンパクを認識し、特異的に分解する。
31
春化によるFLC遺伝子のエピジェネティクな制御機構について説明せよ。
春化処理により、VIN3遺伝子が発現。VIN3を含む複合体によってFLC発現抑制機構が開始する。VIN3によってHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)が誘導され、FLC遺伝子のヒストンH3が脱アセチル化を受ける。 次にVRN2を含むPRC2がH3K27をトリメチル化し、VRN1を含む複合体がH3K9をトリメチル化する。ここでメチル化されたH3K27を認識してTFL2がFLC遺伝子座に結合し、条件的ヘテロクロマチン構造を形成。FLC発現抑制が維持される。
32
FLCの発現抑制は次世代の種子では見られなくなる。その理由について説明せよ。
次世代では、FLCに対するエピジェネティクな遺伝子発現制御がリセットされていると考えられる。 ①ヒストン分子標識の除去 ヒストン脱メチル化酵素によって、ヒストンの分子標識が除去される。 ②ヒストンの交換 メチル化ヒストンを転写活性化(抑制)に適した別の変異種ヒストンと交換する。
33
ta-siRNAの形成機構について説明せよ。
内在性siRNAの多くは、siRNA前駆体遺伝子、siRNAが形成される領域近くの遺伝子発現を抑制する。一方で、ta-siRNAは自身に相補的な配列を持つ別の遺伝子発現を抑制する。 形成過程 RNAポリメラーゼⅡの働きにより、TAS遺伝子が転写される。TAS遺伝子はmiRNA(miR390、miR173)によって切断される。次にTAS遺伝子のmiRNAによる切断産物を鋳型として、RDR6(RdRP)の働きにより、完全な相補性を持つ二本鎖RNAを合成する。 二本鎖RNAがDicerによって21ntごとに切断され、taーsiRNAとなる。 ta-siRNAの形成にmiRNAが必要な理由として以下の2つが挙げられる。 ①RDR6の働きにより、siRNAの合成に必要な二本鎖RNAを合成するためには鋳型となるRNAが必要なため。 ②二本鎖RNAの末端を決めることで、21ntごとに切断部位を認識することが可能になる。
34
nat-siRNAの定義と合成過程について説明せよ。
同一の遺伝子座から逆方向にオーバーラップして転写されたmRNAによって生じる二本鎖RNA由来のsiRNA RNAポリメラーゼⅡによって転写されたSRO5、P5CDHの二本鎖に対してDCL2により切断された複数の切断産物の内、一つが機能的な24ntのnat-siRNAとなる。 24ntのnat-siRNAは、P5CDH転写産物の切断を誘導する。切断されたP5CDHを鋳型として二本鎖RNAが合成。 二本鎖RNAはDicerによる切断をうけて、21ntのnat-siRNAとなり、P5CDHの切断を誘導する。
35
hc-siRNAの定義と合成過程について説明せよ。
RNAポリメラーゼⅣによって合成されたRNAからRDR2の働きにより、二本鎖RNAが合成。DCL3による切断を受けて、24ntのsiRNAとなる。AGO4に取り込まれて、mRNA切断、クロマチン修飾、ヘテロクロマチン領域の形成・維持に関与する。
36
siRNAによる葉の相転換について説明せよ。
成熟期への移行が野生型よりも早いヘテロクロニック突然変異体を用いた実験により、TAS遺伝子から作られるta-siRNA(ARFを標的)の発現低下による過剰なARF転写因子(オーキシン応答性転写因子)発現が成熟期への移行が早まる異時性の原因であることが判明した。
37
倍数体の形成モデルについて説明せよ。
倍数体の形成には、二段階モデルと一段階モデルが提唱されている。 二段階モデルでは、2倍体間の交雑によってF1雑種が生じた後、染色体が倍加して倍数体が生じる。 一段階モデル ①2倍体減数分裂時に異常が生じ、染色体の分配が行われず、非還元配偶子が形成。雄と雌の両方で生じた非還元配偶子の受精により倍数体が生じる。 ②2倍体がそれぞれ同質四倍体となり、その交雑によって異質四倍体が生じる。
38
倍数化によって起こる変化について説明せよ。
異質倍数体として異なるゲノムが組み合わされた時、特定のDNA配列が欠落するゲノムショックが起こる。
39
異質倍数体において染色体はどのように発現するか。
異質倍数体において両親2倍体由来の同祖遺伝子をP1、P2とし、それぞれのシス配列(同一分子上の遺伝子発現を制御する配列)に結合するトランス因子をX、X´とする。 両方のトランス因子が存在する場合、両方の同祖遺伝子が発現する。 一方で、片方のトランス因子しか存在せず、そのトランス因子がもう片方のゲノム同祖遺伝子シス配列に結合できない場合、片方の同祖遺伝子のみが発現する。
40
ゲノム分析における細胞遺伝学的手法について説明せよ。
ゲノム分析は、各植物間の類縁関係、倍数性植物の由来を調べる際に用いられる。 細胞遺伝学的手法は、イネ、コムギ、アブラナ科植物にて用いられる。 2つの2倍体種を交配させたとき、F1雑種にて減数分裂中期に安定してx個の対合した二価染色体が発現している場合は、両親が相同なゲノムを持つと推測できる。 反対に、相同染色体の対合が起こらない時には、両親は互いに非相同のゲノムを持つと考えられる。
41
四倍体種のゲノム分析について説明せよ。
ある四倍体種をAゲノム2倍体種と交配させた時、F1雑種において全てが三価染色体となっていた。この時、交配に用いた四倍体種は同一のAゲノムから構成されていると推測できる。
42
雌雄異株の植物における性決定のメカニズムについて説明せよ。
二倍体のマメガキを例にして考える。 性染色体がXXである雌株では、常染色体由来のMeGI遺伝子にコードされたホメオドメインを有するタンパク質が雄ずいの発育を特異的に抑制することで雌花が形成される。 反対にXY型である雄株では、Y染色体上の低分子RNAをコードするOGI遺伝子がRNA干渉によりMeGI遺伝子の発現を抑制することで雄ずいが発達し、雄花が形成される。
43
1RS⁻1BL染色体について説明せよ。
ライ麦の染色体の一部が相互転座によりコムギに移動したもの。生産量の上昇に関与する。
44
シロイヌナズナにおけるmiRNAを介した相転換について説明せよ。
成長の最初期には、miR156の発現レベルが非常に高く、miR172の発現レベルは非常に低い。これにより、幼若相の栄養成長が促進され、葉の表側の毛が形成。 時間を追うごとに、miR156の発現量は低下し、代わりにmiR172の発現量が増加する。これにより成熟相への移行が促進される。 miR156の発現レベル低下はSPL9,10の発現量の増加を促し、miR172の発現量を上昇させる。 発現したmiR172は花芽形成を抑制する6個のAP2ファミリー転写因子の発現を抑制し、SPL3~5遺伝子による花芽形成を促進する。
45
植物がリン酸ストレス条件下に置かれた際のmiRNAの働きを説明せよ。
miR399がリン酸ストレス条件下で誘導され、篩管を経て根へと運ばれる。その後、根のリン酸輸送体分解に関わるユビキチン結合酵素E2をコードする遺伝子の発現を抑制。 これによりリン酸ストレス条件下におけるmiR399依存的なユビキチン化の抑制が起こる。
46
ヒストンコード仮説について説明せよ。
遺伝子発現の変化について、ヒストン修飾を介したクロマチン構造の変化により誘導される。
47
CRISPRーCas9が細菌が持つウイルスやファージに対する免疫機構だと考えられる理由について説明せよ。
CRISPRーCas9は、短い反復配列の間にスペーサー配列を挟み込む構造をしており、スペーサー配列は既知のファージやプラスミドに同一であることが示されている。 細菌は感染したファージからスペーサー配列を獲得し、CRISPRは単一の長いRNAとして転写されたのち、侵入したファージDNAやRNAを標的として切断する短いRNA分子種へと加工される。(crRNA)
48
トランスポゾンの転移・挿入過程について説明せよ。
転移酵素がトランスポゾン両端の逆方向反復配列に結合し、組み換えが開始される。反復配列を認識した転移酵素トランスポゾンDNAの両末端を引き寄せて、タンパク・DNAの複合体を形成(対複合体)。 対複合体にてDNAの切断と連結が行われる。転移酵素はトランスポゾンの両端が遊離の3’OHとなるように切断する。 3’OHが標的DNAのホスホジエステル結合を攻撃し、トランスポゾンと標的DNAが共有結合でつながる。
49
今、ウエスタンブロットによるウイルスタンパク質解析の結果を電気泳動で確認する。以下の点について言及しながら、電気泳動による結果の確認方法について説明せよ。 プロトコルが正常に行われたかどうかはどのように確認するか バンドが見えないレーンではウイルスタンパクが検出されなかったと考えてよいか。
電気泳動の結果は、サイズマーカーのバンド位置と目的タンパクの大きさが一致するかで確認する。 プロトコルが正常に行われたかどうかは、ウイルスタンパクが確実に発現しているポジコンのバンドが検出されるかどうかで確認する。 合わせて、ウイルスタンパクを含まないネガコンでバンドが検出されないことを確認し、抗体の非特異的な結合による偽陽性がないことを見る。(偽陽性:ウイルスが感染していないにもかかわらず、電気泳動でバンドが出ること) 次に、他のレーンで目的のタンパク質が発現しているかを見る。ポジコンとバンドの位置が同じ時、目的のタンパク質が発現していると判断できる。 一方で、異なる位置にバンドが検出された際には、抗体が認識するエピトープ(抗原決定基)を含む他のタンパク(アイソフォーム)を検出している場合がある。また、サンプル調製の段階で目的のタンパク質構造が壊れて、部分的に検出されている場合がある。 トラブルシューティング
50
次世代シーケンサーを用いた分子育種について、MutMap法について説明せよ。
EMSにより作出した変異体と原品種を交配し、F2集団から突然変異形質を持つ個体を複数選抜してDNAを抽出する(バルクDNA)。 抽出したDNAに対して、ショートリード型のNGSで全ゲノムを解析。合わせて原品種の全ゲノムを解読し、原品種と突然変異個体バルクの間の一塩基多型(SNP)であるSNPインデックスを算出。 EMS処理では、染色体全域にわたって、1000~2000ほどのSNPが生じる。突然変異体バルクにおいては、目的遺伝子から離れた領域ではSNPの割合が半分になる(インデックス=0.5)。反対に目的遺伝子に近い領域ではインデックスの値が1に近づく。
51
DNAマーカーを用いた育種の利点について説明せよ。
表現型の違いとして、現れないDNA配列の違い(量的形質)を検出できる。DNAマーカーは、DNA配列の違いを遺伝子型として検出する。 DNAマーカーの種類として、両親P1,P2の交雑によって、形成されるF1個体においてP1,P2両方の増幅産物(バンド)が検出されるものを共優性マーカーといい、F1個体で両親の片方の遺伝子型のみが検出されるものを優性マーカーという。
52
RFLPについて説明せよ。
制限酵素で処理したDNAを電気泳動し、プローブとハイブリダイゼーションを行う。検出したプローブを用いて、ゲノムDNA上に制限酵素認識配列があるかどうかを調べる。また、プローブDNAに対応するゲノムDNA上に挿入・欠失があるかどうかを多型(塩基配列の違い)として検出する。
53
SCARについて説明せよ。
SCARは共優性・優性マーカーの両方として働く。 ①共優性マーカー 増幅産物の中に挿入・欠失の違いがあると、増幅産物の長さの違いとして反映され、この場合の多型は共優性としてあらわれる。 ②優性マーカー 増幅産物の有無による違いは、優性マーカーとして現れる。このとき、ホモ接合体とヘテロ接合体の区別がつかない。
54
CAPSについて説明せよ。
植物A・Bのうち、Bの配列には制限酵素認識部位に変異が生じている。PCR産物を制限酵素で処理した断片長の違いによって多型を検出。 制限酵素認識部位を持つ野生型ではバンドが2本検出され、変異体では切断が起こらないため、バンドが1本のみ検出される。
55
dCAPSが一塩基多型を検出できる理由について説明せよ。
植物A・BにおいてBの塩基配列に一塩基多型を持つ。dCAPSによる解析を行うときは、片方のプライマーを設計する際にSNPを含む配列に新しく制限酵素認識配列が生じるようにする。これにより、PCR増幅産物を制限酵素で切断して、DNA断片の長さの違いとして多型を検出する。
56
SSCPについて説明せよ。
一塩基多型の検出が可能。 PCR産物を熱変性により、一本鎖DNAに解離する。その後、変性剤を含まないポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行う。この時、一塩基多型が存在すると二次構造に変化が生じて、異なるバンドパターンとして検出される。
57
SSRについて説明せよ。
反復配列(マイクロサテライト)の違いを多型として検出する。反復数を挟むようにプライマーを設計し、電気泳動により反復数を反映した多型を検出する。
58
RAPDについて説明せよ。
優性マーカー ゲノムDNAを鋳型として、短いプライマーを用いてPCR増幅を行う。ゲノムDNAには、プライマーと同じ配列が複数存在し、プライマーに挟まれた領域が増幅する。 植物系統間の塩基配列の違いにより、DNAが増幅される場合と増幅されない場合がある。この違いを電気泳動後のバンドの有無として検出する。
59
AFLPについて説明せよ。
植物A・Bのうち、Bでは制限酵素認識部位に変異を持つ。 アダプター配列、蛍光物質を付加したプライマーを用いたPCRにより増幅。蛍光を発する増幅断片の長さの違いにより多型を検出する。
60
DNAマーカーを用いた耐病性植物の育成について説明せよ。
耐病性遺伝子の近くに連鎖するDNAマーカーを用いて選抜。
61
ゲノム分析を用いた同質倍数体の解析について説明せよ。
ゲノム分析では、各植物間の類縁関係や倍数体化を調べる。 二倍体と同質四倍体 基本数x本の染色体を持つ二倍体間種で交雑を行う。獲得したF1雑種の減数分裂、中期における染色体の対合の有無、程度を評価する。 両親が相同ゲノムAAを持つ場合、中期にx本の正常に対合する二価染色体(xⅡ)が形成。一方で、両親が非相同のゲノムAA、BBを持つ場合、中期に対合が確認されず、2x本の一価染色体(xⅠ)を形成。 ゲノム構成が決定された分析種を用いて、同様の手順により未知の二倍体種、倍数体種についてゲノムを分析できる。相同性が見られない場合、見つけた順番にC、D、Eゲノムとする。 核型分析では近縁種間の類縁関係をより正確に推定する方法である。核型とは、核分裂中期の染色体数と各染色体の形態を表す。 核型分析では、両親、後代、系統、近縁種の核型を比較する。
62
異質倍数体におけるゲノム分析について説明せよ。
AA、BBのゲノム構成を持つ種間の遠縁交雑で得られたABは減数分裂時に同祖染色体ABの対合が出来ず、稔性が低下する。これを倍加して複二倍体AABBにすることでAはA同士、BはB同士で対合歯、二倍体と同じように減数分裂時の染色体行動をとる。 これによりABの染色体構成を持つ稔性のある配偶子を形成。
63
キメラの定義とキメラを利用した育種法について説明せよ。
キメラとは、野生型の細胞で構成される領域と突然変異細胞に由来する領域が1つの植物体内に同時に存在する状態を指す。 周縁キメラ:一部の層に限り突然変異細胞が見られる状態 区分キメラ:全ての層にわたって一部が突然変異細胞によって構成されている状態。 不完全周縁キメラ:ある層の一部分のみ突然変異細胞が存在している。 栄養繫殖植物では、不安定な区分キメラ・不完全周縁キメラを安定化させるために切り戻しや摘心によって分裂組織における突然変異が占める領域を増加、完全変異体にすることでキメラを解消する。
64
ゲノム編集とその分類について説明せよ。
ゲノム編集では、DNA特定塩基配列を切断する人工ヌクレアーゼを用いてDNAを切断。ノックアウトや別のDNA配列への置換を行う。 SDN-1:人工ヌクレアーゼによる切断のみを行い、修復エラーによる変異を利用。 SDN-2:切断される配列に相同な1~数塩基の変異を導入したDNA断片を組み込み、切断後の修復時に導入したDNAを元に戻して変異を修復。 SDN-3:切断する配列に相同な配列、外来遺伝子を組み込む。 相同組み換えによって、切断された位置に外来遺伝子を含むDNA断片が導入される。
65
CRISPR-Cas9について説明せよ。
細菌が持つ獲得免疫システム。細菌に侵入したファージやプラスミドDNA配列を取り込み、次に侵入した時、配列を認識して切断を行う。CRISPR-Cas9はヌクレアーゼ活性を持ったCas9タンパク質と特定のDNA配列を認識するガイドRNAから構成されている。 Cas9はゲノムDNAの中でガイドRNAと一致する配列を認識して切断する。 Cas9による切断には、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)が必要である。例として、化膿連鎖球菌に由来するCas9では、NGGをPAM配列とする。Cas9によって切断される標的配列はゲノム中に存在するNGG配列の上流に設定する必要がある。
66
遺伝子組み換えを利用した植物の育成について説明せよ。
除草剤抵抗性植物 除草剤のグリホサートは、植物のアミノ酸合成に必要な酵素に結合してアミノ酸合成を阻害する。グリホサートによる阻害を受けない酵素遺伝子やグリホサートを分解する遺伝子が除草剤耐性遺伝子として用いられる。, 害虫抵抗性植物 トウモロコシに土壌細菌Bacillus thurimgiensisが生産する毒素タンパク質BI毒素遺伝子を導入。BI毒素が昆虫の消化管に入ると消化管が破壊され、死に至る。一方で、人や家畜の消化管では作用しないため無害。 ただし、耐性昆虫が出現するリスクがある。
67
遺伝子サイレンシングを利用した植物の育成について説明せよ。
組み換えトマト:フレーバーセーバー 果実が熟すときに細胞壁ペクチンを加水分解する酵素遺伝子の働きをアンチセンス法により抑制。 ウイルス抵抗性の遺伝子組み換えパパイヤ PRSV(パパイヤリングスポットウイルス)の外被タンパク質を恒常的に発現。感染したウイルスのCP遺伝子発現がサイレンシングによって抑制されることで抵抗性が付与される。
68
植物におけるコサプレッションについて説明せよ。
ペチュニアにおけるカルコン合成酵素遺伝子の導入 バイナリーベクターにCaMVの35Sプロモーターとカルコン合成酵素遺伝子を組み込み、アグロインフィルトレーション法により植物細胞に導入。 花の色は、予想していた紫色ではなく、まだら模様あるいは完全な白色を示した。 強力なプロモーター(35Sプロモーター)の制御下にある導入遺伝子は高レベルで発現し、低レベルで発現する導入遺伝子に比べてコサプレッションを誘導しやすい。 加えて、導入遺伝子のコピー数が多いほど、コサプレッションが起きやすくなる。
69
ショートヘアピンRNAによるRNAサイレンシングについて説明せよ。
ショートヘアピンRNA(shRNA)はダイサーによって切断され、標的mRNAに対して完全に一致するsiRNAを産生する。
70
AGOタンパクの機能ドメインについて説明せよ。
AGOタンパクは、PAZドメインとPIWIドメインから構成されている。 PAZドメインは、siRNAの3’末端に結合し、PIWIドメインは、RNA-RNAハイブリッドを切断する。
71
RNAサイレンシングの伝搬について説明せよ
伝搬とは、RNAサイレンシングが近くの配列に影響を及ぼすことである。時間がたつにつれて、他の領域においてサイレンシングの引き金となった配列と相補的な配列を標的とするsiRNAが発現することを示す。 RdRpがsiRNAを隣接領域に沿って、伸長するためのプライマーとして使用され、ダイサーの標的となる二本鎖RNAを生じる。
72
ta-siRNAの合成について具体例と共に説明せよ。
シロイヌナズナにおいて、TAS1a(2番染色体)、TAS1b(1番染色体)はmiRNA173に対して、完全に相補的な配列を持つ。RNAサイレンシングにより、TAS1a、1bが切断され、RdRpによりsiRNAが合成。 TAS1a、1bから合成されるsiRNAは、由来であるTAS遺伝子ではなく、他の相補的な配列を持つ遺伝子に対してサイレンシングを誘導するため、トランス作用性siRNA(ta-siRNA)と呼ばれる。
73
RNA干渉によるトランスポゾンの抑制について具体例と共に説明せよ。
シロイヌナズナ早咲き株におけるFLC遺伝子発現の抑制 FLC遺伝子は、花芽形成を抑制するMADsドメイン転写因子をコードしている。早咲き系統では、FLC発現レベルが低く、その理由としてFLC遺伝子の第一イントロン内にMu様(Mule)トランスポゾンが挿入されていることが挙げられる。Muleトランスポゾン由来のsiRNAが相補的な配列を持つFLC遺伝子の発現を抑制する。
74
トウモロコシにおけるAc/Dsについて説明せよ。
Acはトランスポゼース酵素をコードしている配列を挟む短い反復配列(IR)を持つ。Ac因子は活性化したトランスポゼース遺伝子を持つため自律的に転移することが可能である。 反対にDs因子は、トランスポゼース遺伝子に欠失変異を持つAc因子であり、自律的に転移することはできない。Ac存在下ではAcが持つトランスポゼースがDs因子のIR(逆方向反復配列)に結びついてDs因子の移動を触媒する。
75
トランスポゾンの分類について説明せよ。
DNAトランスポゾン:切り取り式転移。転移の間、DNAの形を維持する。 レトロトランスポゾン:転移の過程でRNA転写物を生じ、逆転写機構を用いてDNAを合成する。 レトロトランスポゾンには、LTRレトロトランスポゾンとポリAレトロトランスポゾンが存在する。 LTRレトロトランスポゾン:両端に逆転写、挿入の過程に必要なLTR(長い末端重複配列)を持つ。 ポリAレトロトランスポゾン:LTRを持たない代わりにmRNA転写物に由来するポリA配列を持つ。
76
細菌のTn3を例にして、DNAトランスポゾンの転移様式について説明せよ。
トランスポゼース酵素は、トランスポゾンの両端のIRにそれぞれ一本鎖の切れ込みを入れる。 次いで、転移先の細菌染色体DNAにも互い違いの切れ込みが入る。 トランスポゾンDNA鎖の内、自由に動ける末端が染色体分子に侵入する。この時、不安定な構造はトランスポゼースによって維持される。トランスポゼースは染色体侵入部位の一つでDNA複製フォークの形成を促進し、相補鎖がDNAポリメラーゼによって新しく合成されるようにする。 新しく合成されたDNAが親の分子にライゲーション(連結)でつながれると、ドナー(提供者)、レシピエント(受け取り)がつなぎ目で1個のトランスポゾンと共有結合でつながった融合体ができる。 各トランスポゾンは元々の分子からもらった一本鎖と複製フォークにより新しく合成された一本鎖から構成。融合体は、組み換えによって解消され、ドナープラスミド分子と挿入されたトランスポゾンを持つ染色体DNA分子を形成。 分離は両方のトランスポゾンにある短いDNA断片resの整列によって開始される。 次の段階の組み換えはトランスポゾン上にコードされているレゾルベース分子によって触媒される。
77
トランスポゾンを用いた未知の配列の解析法について説明せよ。
逆向きPCRを行う。未知の配列の間に既知のトランスポゾンを挿入し、制限酵素EcoRIで切断。低いDNA濃度でライゲーション(連結)を行う。その後、既知のトランスポゾンを外側から指定するプライマーを用いたPCR増幅を行うことで未知の配列を増幅する。
78
ヒストンコード仮説について説明せよ。
ヒストンコード仮説とは、ヒストンテールの化学修飾の組み合わせが遺伝子発現調節のための暗号(コード)として機能するという考え方である。これに基づいて、ヒストンの配列中、どの部位が就職を受けるかによって、周囲の遺伝子発現は活性化あるいは抑制される。
79
レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入について説明せよ。
レトロウイルスは、細胞に感染したのち、逆転写酵素を利用して自身のRNAゲノムをDNAに転換する。ウイルスDNAは宿主ゲノムに効率よく組み込まれてプロウイルスとなる。 レトロウイルスベクターは、外来遺伝子を長期間安定して発現させるために用いられる。 レトロウイルスベクターは、gag(ウイルス粒子の芯)、pol(逆転写酵素)、env(ウイルス粒子の殻) 目的遺伝子はプロモーター活性を持ったLTR配列の間にクローン化され、安定して発現する。組み換えウイルスプラスミドはパッケージ化細胞株に形質転換され、組み換えウイルスプラスミドから生産されたRNAはパッケージ化される。パッケージ化細胞株から遊離されたウイルスはLTRに区切られた目的の遺伝子のみを持つ。 ウイルスベクターRNAを目的の細胞に感染させることで、逆転写機構を介してRNAがDNAへと合成され、宿主ゲノムに組み込まれる。
80
プロトプラストから植物体を再生させる過程について説明せよ。
①植物体の葉や苗木を断片に切断。 ②セルラーゼや糖、塩を含む溶液に浸す。 ③洗浄して破砕物を取り除くために遠心分離を行う。 ④遠心分離により、プロトプラストは浮遊し、細胞壁の破砕物は沈降する。 ⑤プロトプラスト細胞からコロニーを形成し、高サイトカイニン、低オーキシンを含む寒天培地にコロニーを移し、芽の成長を促進。 ⑥マゼンタ箱にてサイトカイニンを欠き、低オーキシンを含む培養液に移して根の伸長を誘導する。
81
育種学における近交弱性と雑種強勢の利用について説明せよ。
生存にとって不利な有害遺伝子(劣性遺伝子)が近親交配によりホモ接合体になると植物の大きさや耐病性、多産性が低下することを近交弱性という。 一方で、近交弱勢が見られるホモ接合体同士を交配して作出したヘテロ個体では生育が旺盛になる雑種強勢が見られる。 近交系統を用いてヘテロ接合体を作出する方法を一代雑種育種法(ヘテロシス育種法)という。
82
胞子体型自家不和合性を示すアブラナ科植物で見られるS対立遺伝子間の優劣性の発現についてRNA干渉の考えをもとに説明せよ。
胞子体型自家不和合性を持つアブラナ科植物では、複数のS対立遺伝子間で優劣性関係が見られる。S44>S60>S40>S29が生じる。 ヘテロ接合体を作出したとき、S44は自身以外の全ての対立遺伝子に対して優性を示す。一方で、S60はS40、S29に対して優性を示す。 S遺伝子座上には、雌ずい側S因子SRK遺伝子、花粉側S因子SP11に加えて、SP11遺伝子のプロモーター領域と相同性を持つ低分子RNAをコードした遺伝子Smi2が存在している。 優性低分子RNAは劣性SP11遺伝子の発現調節領域に作用することでメチル化を誘導し、下位のSP11遺伝子の発現を抑制する。 反対に下位にある低分子RNAは上位のSP11遺伝子発現調節領域に作用することが出来ず、メチル化を誘導しないため、上位のSP11遺伝子が発現できる。
83
自家不和合性について説明せよ。
他殖性植物において遺伝的多様性を維持するために必要な機構の一つ。異形花型と同形花型に分類。同形花型はさらに配偶子型と胞子型に分けられる。同形花型の自家不和合性においては、花粉側S因子(SP11)と雌ずい側S因子(SRK)が一致するときに不和合性を示す。 アブラナ科植物においては、胞子体型不和合性の場合、花粉管は雌ずい先端の柱頭表面の乳頭細胞上で停止する。 花粉因子はF-boxタンパク質SLF、雌ずい因子はRNAを分解するRNaseであることが示されている。 SLFは非自己由来のS-RNaseとは結合できるが、自己のRNaseとは結合できない(協調的非自己認識システム)。
84
アポミクシスの定義とそれを利用した育種法について説明せよ。
アポミクシスとは、受精なしに胚発生を経て、種子を形成する現象である。アポミクシスは、不定胚形成と配偶子型アポミクシスに分類される。 不定胚形成では、胚のう周辺の珠心や珠皮などの体細胞組織から不定胚が形成されることであり、受精胚と同じように植物体に分化する正常な胚を形成する。 配偶子型は、イネやキクなどの同質・異質倍数体植物で見られる。配偶子型アポミクシスには、複相胞子生殖と無胞子生殖の2つが存在。 複相胞子生殖では、胚のう母細胞の減数分裂異常により非還元(2n)の胚のうが形成。 無胞子生殖では、珠心や珠皮などの体細胞から胚のうが形成される。 配偶子型アポミクシスの胚のうが胚を形成するためには、卵細胞や受粉を経ずに胚を発生する単為生殖、受粉の刺激により胚形成を促す偽受精生殖を行う必要がある。
85
アポミクシスが種子形成に与える影響について説明せよ。
絶対的アポミクシスでは、アポミクシスでのみ種子形成を行う。 条件的アポミクシスでは、有性生殖と共に、種子形成を行う。交雑によって、遺伝的変異を分離し、選抜個体をアポミクシスにより種子増殖させる。これにより雑種強勢を固定することが可能になる。
86
遺伝子重複の定義とメリットについて説明せよ。
遺伝子重複では、不等交叉により遺伝子のコピー数が増加する。これにより一つのコピーが変化しても、他のコピーが元の機能を果たすため、影響はしない。 タンパク質ファミリーは、遺伝子重複とその後の配列の多様化によって生じる。遺伝子重複により、1つのコピーが細胞機能を保つために必要な配列を維持しているため、もう一つのコピーに選択圧のない状態で変異を誘導することができる。 遺伝的浮動により、選択圧のない状態で、変異が徐々に蓄積する。
87
DNAメチル化配列の解析法について説明せよ。
ゲノムDNAを非メチル化CpG塩基配列のみを選択的に分解する6種の制限酵素で処理したものと制限酵素無処理の2つに分ける。 2つの処理区に対して、超音波処理を行い、消化したDNAの一部をCy3緑色、非消化DNAをCy5赤色で標識してマイクロアレイにて競合的にハイブリダイズさせる。 消化試料にて、除去された非メチル化CpG配列が非消化試料には含まれているため、非メチル化CpGを多く含む配列をcy5の赤色標識により検出できる。
88
変異体が優性となるか、劣性になるかの基準について説明せよ。
塩基置換による変異がタンパク質の機能を高める場合、優性、タンパク質の機能を失わせる場合に劣性ととらえることができる。
89
二本鎖RNAがRNAサイレンシングを誘導することについて説明せよ。
逆方向反復配列を持つトランスジェニックコンストラクトの植物での発現は、二本鎖RNAがコサプレッションを開始することを示す。 PVYのウイルス伝染に必要なタンパク質分解酵素遺伝子を互いに逆方向に2個並べた配列を持つプラスミドを構築。プラスミドの配列が転写されると、結果として、生じたRNAはそれ自身が折り返された二本鎖RNAを生じる(回文配列)。
90
RNAスプライシングとスプライシングが起こる過程について説明せよ。
RNAスプライシングとは、mRNA前駆体からタンパク質非コード領域イントロンが取り除かれ、タンパク質コード領域であるエキソン同士がつながる過程である。RNAスプライシングはスプライソソームで行われる。 真核生物mRNAの5’、3’のスプライス部位の共通配列ではほとんど全てのイントロンがG:Uで始まり、A:Gで終わる。この中に分枝部位であるA(アデニン)が含まれる。 分枝部位のヌクレオチドAはスプライシングに直接関与する。分枝部位Aのリボースのヒドロキシル基はエキソンの最後のヌクレオチドGのホスホリル基を攻撃し、RNAの糖ーリン酸骨格の切断を起こす。 新たに露出したエキソンのGのヒドロキシル基が次のエキソンの最初のヌクレオチドであるGのホスホリル基と反応。2つのエキソンは結合し、イントロンはラリアット構造で放出される。
91
エキソンシャッフリングとは何か
エキソンがタンパク質の機能的ドメインをコードし、イントロンがエキソンの組み換えを促進するのであれば、イントロンが遺伝的多様性を促進していると考えられる。
92
タンパク質非コード領域であるイントロンが機能を持つ
脊椎動物のリボソームRNAの成熟に関わる安定な核小体の低分子RNA(snoRNA)に対する遺伝子のほとんど全てが別のタンパク質をコードする遺伝子の中で見つかっている。 このことから、イントロンがスプライシングされ、切り出された後、イントロンの5’末端と3’末端からヌクレオチドが取り除かれ、イントロンから機能的なsnoRNAが形成される。
93
真核生物における偽遺伝子について説明せよ。
真核生物の染色体には機能を持たないプロセス型偽遺伝子が存在する。mRNA分子に類似しており、プロモーターやイントロン配列を欠いており、遺伝子の3’末端にポリA尾部を持つ。